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横浜事変-the mixing black&white-
舞台を色鮮やかにするならば、裏方の存在は不可欠だ
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横浜駅 某路線ホーム

 横浜南部へと向かう近郊電車のホームに、特異な雰囲気を放散する二人組がいた。

22時を回った現在、ホームには仕事帰りのサラリーマンが大半を占めている。その中で二人組の存在――特に片方――は、群衆の中にゾウが居座っているように目立っていた。

 一人はシルバーのリボンに青が基調の制服を纏った少女。白い地毛が重力に習って下方に流れ、風が吹くたびに一本一本が意志を持っているかのように揺らめいている。灰色の目はやや右上にある行先掲示板を映していて、その表情はやや呆れと疑問を浮かべていた。

 「なあ、ヴァウル。この国の列車のホームというのはどうしてこんなに煌びやかなんだ?私からしてみれば見にくくて仕方ないのだが」

 すると、隣にいるヴァウルと呼ばれた巨漢のロングコート男は直立不動の姿勢で恭しい言葉を並べ立てた。

 「日本は世界各国の中でも上位の先進国です。彼らを始めとした近代産業技術は日々進化を続け、人間の生活をよりスマートにさせています。社長が鬱陶しそうに眺めている掲示板もその一環で、長方形の狭い画面に人々の容量に見合わせた簡素な情報を利用者に届けているのです。素晴らしい仕様だと思いませんか?」

 「これが簡潔な情報?はっ、行先だけで十分だろうに」

 「時刻が把握できなければ列車には乗れません。運行形態が分からなければ目的の駅を通り過ぎてしまう可能性があります」

 「なにが4つドアだ。4つだろうが6つだろうが乗れることに変わりはない」

 「最近の首都圏は主流の車両が限定されています」

 「グリーン車がどうした。だったら車体を緑に塗れよ。女性専用車だなんて、だったら男性を撲滅してしまえばいい」

 「社長、半ばヤケになっていませんか?」

 「……」

 二人とも流暢な日本語を使っているのが逆に異質な空気をぶちまけていた。周りから多くの視線を感じているのも気にせずに、社長と呼ばれた少女は愚痴を漏らした。

 「それにしても、この国の殺し屋は近代技術とは反対に幼稚なものだな。あの男は何故こんな面倒な事をしたんだ?まあ、自分達の情報を無料で提供してくれたのはありがたかった。結論、ヨコハマの殺し屋達は取るに足らない存在だと分かったよ」

 「しかし、ヘヴンヴォイスは彼らの陳腐な争いの歯車に組み込まれてしまいました」

 「その歯車からあいつらを剥ぎ取るために私達が来たんだろう。やるべきことは一つ終わった。あとはもう一つを終わらせるまでだよ」

 ロシアを根城にする武器商社の若き社長はニヤリと笑い、ホームに響く列車進入アナウンスに被る形で一言呟いた。

 「まあ、剥ぎ取る前に好きな分だけ遊ばせてやるとするか。あいつらもストレスが溜まってるだろうしな」


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