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闇物語
コヨミフェイル
005
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通だなって。てっきり驚くことが一つや二つぐらいあるのかなって、身構えたんだけど」
 「悪かったはね。期待に応えられなくて」
 「いや、応えなくていい」
 「そう。それより黙って食べることね。今の時間わかっているのかしら?」
 「ん?って!もうこんな時間かよ」
 戦場ヶ原に言われて初めてタイムリミットが後十分だと気づいた。いつもなら何等問題のないタイムだが、今日は弁当を二つ食べなければならないから、一つの弁当にかけられる時間は五分足らずだ。かなりのハードスケジュールである。
 しかし、だからと言って戦場ヶ原の弁当をそんな早食い大会のようには食べたくない。せっかく作ってきたのだから弁当も戦場ヶ原の想いも無駄にはしたくない。余裕を持って味わって食べるのが道理だろう。
 しかし、そうすると、今度は母親の弁当を諦めないといけない。放課後に食べるという選択肢はあるが、猛暑日のじめじめした日に弁当がいつまで持つかが疑わしいし、母親の苦労も無駄にはできない。落ちこぼれても作ってくれているのだからなおさらである。できるだけおいしく食べたい。
 だが、どちらも取ることはできない。二者択一だ。
 どうすればいいだろうと思ったところで妙案が浮かんだ。
 二人で僕の母親が作った弁当を食べればいいではないか。おいしく食べるのであれば、僕である必要はないのだから。
 「戦場ヶ原――」
 「私は食べないわよ」
 しかし、そんな僕の考えが御見通しのようである戦場ヶ原は付け入る隙を作らないかのようにきっぱりと拒否した。
 「私を太らせる気?」
 「いや、弁当二つ食べてくれとは言わねえよ」
 「少しでも普段より食べれば、十分女子には太る要因になり得るのよ。それとも阿良々木君はポッチャリの方が好みなのかしら」
 「そういうわけではねえよ」
 女子は少しでも食べる量を増やすと太ってしまうのか。案外繊細なんだな。
 「とは言っても確かに一人で食べるには無理な量ね」
 戦場ヶ原はそう言って考え込んだが、それは一瞬で
 「なら私に考えがあるわ」
 と、言って携帯を取り出した。
 ちなみに誤解が無いように付け加えさせてもらうと、校内では携帯の使用は全面的に禁止されていて、見つかれば停学処分だ。戦場ヶ原の場合、推薦もないことになる可能性があるのだ。
 「おいっ!何してんだ!」
 だから思わず大声が出てしまってもしょうがないだろう。
 「うるさいわね。騒がれると、見付かるのだけど」
 「ご、ごめん」
 何故か僕の方が謝らされた。
 戦場ヶ原は誰かに電話をかけているようだった。電話を掛けるような友達は少なく、家族に至っては忙殺されている父しかいない戦場ヶ原が電話を掛ける相手は自然と校内にいる神原か羽川に絞られるのだけど、携帯の電源を入れているのだろうか。

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