コヨミフェイル
005
[5/13]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
た。握られたことに八割、握る戦場ヶ原の手が妙に火照っていることに二割驚いて戦場ヶ原の顔を覗き込んだ。らしくもなく緊張した顔つきだった。声もどこか揺れていたように聞こえた。さっきまで抑揚のない声で僕を痛め付けていたのが嘘のようだった。
「だめなのか」
「い、いや、いいわよ」
戦場ヶ原ははっとしたように手を離した。自分でも何をしているのかわからなかったのだろう。戦場ヶ原は明らかにうろたえていた。顔をわずかに俯かせて、目は頼りなく泳いでいた。
あの冷酷無比にしてクールビューティーを絵に描いたような戦場ヶ原がうろたえていた。もうこの場には羽川はいない。僕を残して去ったはずだ。
なのにうろたえていた。ちらちらと僕の目を覗き込んでは目を逸らしていた。
弁当に自信がないのか?
いや、そんなことを気にする奴だったか?
「私の弁当は凄く美味しかったかしら?それとも泣けるほど美味しかったかしら?それとも死ぬほど美味しかったかしら?」
とか食べている途中に訊いてきそうなほどだしな。
まずいなんて言葉はまず考慮に入れていないような人間が殊勝にも彼氏の反応を気にするか?
うーん、それとも僕の顔に何かついているのだろうか。そう思う方がしっくりくるな。
「僕の顔に何かついてるか?」
「目がついてるわ、取ってあげる」
「僕の目はご飯粒じゃねえよ!!」
取るってまだ朝のことを根に持ってるのかよ!
執念深過ぎるだろ!
ていうか、うろたえていても律儀に僕を痛め付けるんだな。
それはさておき、僕の顔には顔の部位以外に何かついているわけではなさそうだ。
ならば弁当に自信がないのだろうか。僕に弁当を渡すまでの前置きは、自信がなく、出し渋っていたと考えることはできる。けれど、やはり戦場ヶ原が更生したからと言っても彼氏の反応を気にするほどに劇的に変わりはしていない。確かに二人きりのときはデレてはいるけれど、外だと前とあまり変わらない。毒舌は健在だし、無表情も健在だ。
「……弁当に自信がないのか?」
「な、何を言っているの、阿良々木くん。ヘブライ語で話されてもわからないわ」
自信がないようだった。こんな見え見えのごまかしをされても挨拶に困る。
戦場ヶ原らしくない。
「ヘブライ語がわかるのか?」
弁当に自信がないということがわかったが、僕を前にうろたえた戦場ヶ原があまりにも新鮮だった、というか少し優越感を感じなかったわけではなかった。
だから、ちょっとした出来心で話しを進めた。
いつも罵倒されているのだから、これぐらいは許されるだろうというくらいの軽い気持ちで続けた。
「わからないわ」
戦場ヶ原はきっぱりと言った。
「そう言われると、ヘブライ語がわかるのかという僕のヘブライ語による質問に普通
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ