コヨミフェイル
005
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ひとつだけあるわよ………………土下座よ」
「土下座は必要条件っ!」
「何を言っているの。当然でしょ。私の弁当が土下座で食べられのよ。身に余る幸運じゃない」
戦場ヶ原は本当に当然というかのように抑揚なく言ってのけた。
「分かった。土下座はしてやる。その代わり僕に毎日弁当を作れっ!」
悠然と腰を上げ、戦場ヶ原の前に勇ましく立ち、膝を折ろうとしたその瞬間だった。
「だったら、戦場ヶ原さんの弁当を食べたいから私も土下座しようかな」
猫撫で声が僕が土下座に移行するのを制止させた。声のした方を向くと、そこに小悪魔な微笑を湛えた羽川の姿があった。
羽川は僕が知っている限り最も委員長に相応しい委員長、委員長になるべくしてなった委員長、委員長の中の委員長である。今ではすっかり様変わりして、かつての姿はほとんど残していないが、元々は髪を三編みにし、眼鏡をかけていて見るからに委員長というオーラを纏っていた人物だった。
小悪魔な微笑を浮かべることなんてほとんどなかった。
ところが、ある日を境に髪をばっさりと切り、短髪にするだけでなく、それにジャギーをいれた。眼鏡も外し、コンタクトを付けるようになった。
それで学校は狂騒の坩堝と化した。先生の中に責任を感じて辞表を出した先生までもいるという噂がまことしやかに囁かれたほどだった。(羽川は訳を聞かれても、きっぱりと『イメチェン』とだけ言って、それ以上の追及を許さなかった)
それも当然、羽川はこの時点でどんな大学にでも受かるとまで言われる学校創設以来の秀才だからだ。(そんな期待と裏腹に羽川は進学の意志はない。高校を卒業したら海外を旅して回るそうだ)
「そ、そんなことはしていただかなくとも、こんなつまらない弁当が欲しければ、は、羽川様には好きなだけ差し上げます」
戦場ヶ原は明らかにうろたえていた。うろたえながらもかなりの卑屈さを発揮していた。羽川に対してはこうも卑屈になれるのに、彼氏には卑屈になるどころか、有らん限りの言葉で毒づくだけなんだけどなあ。
何だろう、この差は。
「嘘に決まってるじゃない。阿良々木くんに丹精込めて作った弁当を私が食べるのはお門違いもいいところだよ。だけど、阿良々木くんに中庭の真ん中で人目も気にせず土下座させるなら、その可能性は否めないけど」
と、羽川に言われて、周りを見回すと、中庭にいる他の生徒が片膝を折っている僕が何をしようとしているのか好奇の目で見ていた。
目が合うと、弾かれるように顔を逸らされた。
かなり居心地が悪くなってしまった。学校での僕の居場所が少なくなっていないのだろうか。
「それと――」
途中からは羽川は口元を手で隠して戦場ヶ原の耳元で小声で話したために内容は聞き取れなかった。でも、それはほんの少しの間で、おおよそ二言
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