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Muv-Luv Alternative 士魂の征く道
12話 鬼の目にも涙
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…」
壊れ物に触れるかのように、唯依は自分の身を包む着物をそっと優しくなでた。
明らかに上質な着物や装飾品、相当に大事にされてきたのは何となくわかったのだろう、そんな大切なものを自分にという思いやりを感じてくれているようだ。
「母はよっぽど君を気に入ったようだ。あの人に気に入られるとはやるな……誰かに喜んでもらうことが好きな人間だが、誰とでもいうほど博愛精神には富んでいない。
―――ま、そのなんだ。すごく似合っている。きれいだ。……くそっ、高尚な言い回しはこういう時にこそ咄嗟に出てほしいというにな。」
少し照れくさくなって、彼女の頬から手を放すと頭を掻きながら告げる。
それに応じてか、ひどく単調な言葉しか出ない自分の語録の応用の利かなさに毒を突かずにはいられない。
あの斑鳩や真壁ならスラスラ歯の根が浮くようなセリフが口から出てくるだろうが、あいにく其処までの上品さは意図して作らねば出てこない。だが、不思議と彼女の前はその仮面は上手く作れないのだ。
目に焼き付いた、或いは脳裏に描いた美を絵画に綴ろうとして上手くいかない画家のもどかしさそのままの心境だ。今、正に。
「―――ふふっ」
「笑うな……こういうのは慣れてないんだ。」
口元に手をそっと添えて唯依がほほ笑む。
ああ、まるで春の日差しの中に風に揺られる
蒲公英
(
たんぽぽ
)
のように可愛らしい笑みだ。
どこか無性に気恥ずかしくなるが、もっと見ていたくなる。―――ああ、彼女の本当の顔はこういうモノだろう。
(―――憎らしいな、面倒はすべて自分が背負うと云えぬ己の漢気の無さが。)
仮にそれを口にしても、彼女は頷かないだろう。
彼女にとって、それらは己の手で成さなければ意味のない事であろう。他人の手でそれを成しても、彼女の心に永劫消えぬ影を落とすだけとなる。
其処まで考えた時、自分の中に今までとは違う一念が混じった。
(――いつかお前に、お前はお前で良いんだ……そう云える
益荒男
(
おとこ
)
に成りたいな。)
修羅:忠亮の変性が始まっていることを彼自身が知る由は未だ無かった――――。
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