魔石の時代
第五章
そして、いくつかの世界の終わり4
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彼女達を残してきた村が、神聖ロムルス帝国の襲撃を受けた。
その報告を自分が聞いたのは、第二次オリンピア戦争の最前線にいた時だった。最も過酷を極めるその戦場で、敵味方問わず積み上がる死体の山を眺めながら――この中で自分だけが死なないのだと、そんな事にすら苛立ちを覚えていた頃だったはずだ。
その時の自分が何を思ったのか――それは、不思議と覚えていない。だが、史実として第二次オリンピア戦争はその後一〇年もの長きに渡って戦火を燻ぶらせ、泥沼の攻防戦が延々と繰り返された。その中で、いくつもの集落が戦火に巻き込まれる事となる。
その戦乱に一応の終止符を打ったのは自分だった。『奴ら』の後ろ盾を得た皇帝を仕留めた時の感触だけは不思議とよく覚えている。だが、やはりその時にどんな感情を抱いたかは覚えていなかった。
自分が皇帝を討った事で、神聖ロムルス帝国の中では後継者争いが激化し――いわば内戦状態に陥ったらしい。そんな有様では侵略戦争を維持する事など到底できず、かと言ってサンクダム領にこの期に乗じて帝国を侵略出来るだけの余力もない。結局、一〇年もの歳月を費やして死をばら撒き続けた第二次オリンピア戦争は勝者すら有耶無耶にしたまま終戦を迎える事となった。後に残されたのは、荒廃した大地に山と積み上がる死体と、その何倍にも積み上がった嘆きだけだ。
自分の感じている感情も、どこにでも転がるありふれたものでしかない。皇帝を討ったところで何の感慨もなかったのは、戦場から戦場へと渡り歩く中でそんな事はとっくに思い知っていたからだろう。いや、その程度には自分の感情を突き放していなければ、耐えられなかったのかもしれない。『世界をやり直す』というその誘惑に。
サンクダム領の各国は荒廃した国土の回復に加えて、植民地に取り残されたロムルス人への対応に奔走する羽目になった。およそ三〇〇年の時を超えて蘇った民族対立は新たな世界にも深々と爪痕を残し、その爪痕は往く当てのない難民を大量に生み出す。サンクダム領に取り残されたロムルス人に対する弾圧は概ね苛烈を極めた。それを歴史の繰り返しだと皮肉る事も出来ただろう。だが、事態は深刻だった。失脚した支配者階級に対する私刑が横行し、それは瞬く間に富裕層に――さらには中流階級からいわゆる貧民にまで広がっていく。生欲、傲慢、色欲、憤怒、嫉妬――憎悪の連鎖の中で無数の欲望が花開き、魔法と結びついては魔物となって猛威を奮う。そして、それは新たな憎悪を生み出していく。その狂気の中では、もはやサンクダム人もロムルス人もなかった。どこかで歯止めをかけなければ、サンクダム領そのものが崩壊するのは明白だった。だが、誰もそれを止められない。
ロムルス人の保護を――そう訴えたのは、やはりサンクチュアリだった。世界の終わりから人々を守り抜き、世界を復
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