コヨミフェイル
003
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だから本心を言えずに黙ってしまうことだってあるはずである。何等おかしいことはない。
「言葉の裏まで読むのも大事ですけど、心を読むのは特に必要とされるのです」
だからと言って読みすぎるのはだめですよ、阿良々木さん。
と、八九寺は笑いながら付け加えた。
「ちゃんと戦場ヶ原さんとは二人だけの時間は作っているのですか?勿論勉強の時間を除いてですよ」
「ない……な」
「ですよね。多分戦場ヶ原さんのことですから、阿良々木さんの勉強時間も考えたりして口に出せていないのではと思うのですけど」
「そうかもしれないな」
あの初デート以来デートと呼べるようなことは一切できていないのは事実だ。だけど、夏休みが勉強の遅れを取り戻すときであるのも事実なのだ。言い訳に聞こえるかもしれないが、勉強漬けとまではいかないけれど、それなりに忙しい時間を過ごしたのだ。戦場ヶ原とは勉強会で二人きりになれたし、時折談笑したり、戦場ヶ原の教え方がうまいのか、わからなかったものがわかるようになっていく楽しさもあって、自分では満足していた。
しかし、確かにそれで戦場ヶ原が満足しているということにはならない。楽しい時間を送っているということにはならない。
戦場ヶ原のことを考えていたつもりだったが、違っていたらしい。
蒙を啓かれた気分だ。
「以後は戦場ヶ原さんの思いを汲み取る努力はできる範囲ですることお勧めします」
「わかったよ、ありがとうな。教えてくれて」
「いえいえ。阿良々木さんには一応恩がありますから」
「……一応って」
まあ、いいけど。僕だって恩着せがましく言うつもりはないし。
「では」
と、そこで八九寺。
「学校に遅刻するといけないですから、ここで別れましょう、阿良々木さん」
「おう」
八九寺は僕の返事に大きく頷き、大きな笑顔を作ると、さようなら、また会いましょうと、言ってさっと振り返り、歩き出した。
八九寺は本当に突然何も言い残さずに消えてしまうのではないかと、遠ざかって行くどこかはかなげな八九寺の背中を見えなくなるまで見詰めながら思った。
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