コヨミフェイル
002
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幾度となく助けられたけど(助けてない。人は勝手に助かるのだよとでも言うのだろうが)、結局僕は忍野のことを知ることができていないと思う―お人よしであること以外は。
いつでも何でも見透かしたようなあの態度には困惑されっぱなしだったが、今ではそれもどこか懐かしい。
軽薄な割には頼りがいがあってことあるごとに助けを請いにいっては、「遅かったね、待ちかねたよ」と出迎えられ、「人は勝手に助かるのだよ」と言われる。
これもまた昨日のことのように思い出す。
名残惜しいのだろうか。
きっとそうなんだろう。
いつの間にか、気づかぬうちに気心の知れた仲となっていたわけだ。
なぜ今になって感慨に耽っているのだろうかと思ったが、すぐにその答えは頭に浮かんでいた。
もし彼がこの町に、あの廃墟に未だ居を構えていて、怪異譚の蒐集を続けているならば、僕が一人で付けた決着――今までのあれが決着と言えるのか甚だ自分でも疑問だが――よりも決着らしい落着、落着らしい解決をできたのではないかという思いがそうさせたのだ。
時折、あの時の選択は最善だったのかと思い悩む。
しかし、とどのつまり堂々巡りするばかりだった。最善が何を指すのかわからないのだから当たり前で、それに加えて過去のことを悔やんだって何か変わるわけではないし、生まれわけではないのだ。
今もそれにはまりかけていたが、不意なあくびがそれを遮った。
これ以上頭を絞っても捻っても堂々巡りに陥って何も出ないと暗に脳が言っているのだろう。学習能力の賜物である。
まあ、確かに彼がいたらという仮定は些か都合が良すぎるか。
無駄な思考を止めて立ち上がり、制服に着替えたところではっとして影に声をかけた。
「おい、忍。起きてるんだろ」
「なんじゃ、我が主様よ。用件があるなら手早く済ませ」
案の定朝陽に照らされてできた僕の影から欝陶しがっていることを隠そうともしない忍の声が聞こえた。
「お前だろ、僕の携帯からログ消してくれたの」
ログが自然消滅することは考えられにくいし、消せられるようなものでもない。
となると考えられるのは、忍の物質想像能力である。
「僕の携帯を返してくれないか」
「ふんっ、気付かれてもうたか」
という忍の言葉とともに影から白く細い腕が伸びた。その手には見慣れた携帯が握られていた。というか、僕のである。
それをそっと受け取ると、代わりに持っていた携帯を渡す。
「それにしても便利だな。そのスキル」
「使えるのはお前様の影の中だけじゃがな」
どういうからくりか説明させてもらうと、何かの拍子で(多分火憐にチョークスリーパーを掛けられたときに忍にそれがダイレクトに伝わり、息苦しくなって)目覚めた忍が状況を瞬時に理解し、影から、詳しく言えば僕の日常
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