コヨミフェイル
002
[3/13]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
足した高さにあるのかというと、火憐と月火は中腰になって布団を引っ張っていたのだが、闘牛士のように布団を引っ張っていたために中腰のままだったのだ。腰を使って引っ張り上げるようにしていれば僕の裏拳は布団に阻まれていたことだろう。その瞬間僕の敗北が決していただろう。
火憐と月火は布団に気を取られていてまるで僕の攻撃に気付いていない。
馬鹿な奴め。
僕の裏拳と火憐の顔面との距離は後数瞬あれば。この回転速度であればコンマ一秒も必要ない。
喰らえぇぇぇぇぇぇ。
心の中で叫んだ。それこそバトル物のアニメで仲間を全て蹴散らされて自分も立っているのもやっとの主人公が死力を振り絞ってラスボスに必殺技を放つときのように叫んだ。死力では勿論なかったが、外せば命はないことでは共通していた。
だが、共通していたのはそこまでだった。
後五センチ。近くて遠すぎた。
僕が心の中で叫んでいる途中には既に僕の拳は消失していた。
驚くばかりだが、本当に消失したのだ。先程まで火憐の顔面に到達する軌道をなぞっていた僕の拳が次の瞬間には消えていたのだ――視界から。
僕の腕は何らかの外的力によって横に弾かれて(片方の腕だけだけれど)万歳のようになっていたのだ。
何に弾かれたかは僕の拳のあった場所にある火憐の掌底がありありと物語っていた。後日わかったことだが、ある域を越えた格闘家は制空圏という格闘家にしか見えない領域を持っている。その領域というのは刹那に攻撃を加えられる範囲であり、逆に言えば、その領域に侵入した攻撃には刹那に対処できるということなのだ。徒手空拳ならば、掌底が届く領域で、武器を持っているならば、武器の届く領域となる。さらに極めれば、他の物に気を取られていても、攻撃を視界の端にさえ収めていれば、反射的に阻むことできるようになるらしい。
要すると、火憐はその域に達しているということなのだ。
「ぐはっ」
僕は裏拳を阻まれた事実を受け入れることができないままベッドから転がり落ちた。俯せで落ちたために鼻とか膝とかを床に強か打ち付けたので、思った以上に痛かった。
しかし、僕はそんなことに構っていられるような状態には置かれていない。火憐に攻撃を加えて失敗したのだ。これから僕の身に何が降り懸かるのかわからなかった。
否、わかった。拳と脚だ。
僕の反逆に逆上していつもとは比べものにならないほどの力で痛め付けられるのだろう。それを本能的に予期したのか、ベッドから落ちるが早いか、痛みを感じるが早いか僕は土下座した。
とっさの防御姿勢だった。
とっさの防御姿勢が土下座という悲しい兄だった。
「何してんだ、兄ちゃん」
そんな悲しい兄に降り懸かったのは拳でも脚でもなく怪訝そうな声だった。
「そうだよ朝から妹に
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ