偏に、彼に祝福を。
第二章
七話 勝敗
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来た。
『時間だ。私の勝ちだ』
このメールが来ると同時に、凛さんからの電話が来た。
「そっちはどう? 見つかった?」
「いえ」
まだです、と続けそうになった言葉を必死に飲み込んだ。落ち着け、落ち着け。
「そっか。私達の、負けだね」
「ええ」
ですが、彼に勝たせるつもりもありませんという言葉は、喉元に来ることすらなかった。
「凛さん、全員を寮に集めてください。もし難しい場合は、マネージャーをつけてホテルに泊まるよう指示を」
彼女たちは、彼が自殺を図っていることも、またそれによるタイムラグを使って私達が見つけようとしていることをしらない。
「分かった。明日、いろいろと話したいことあるから」
じゃあねと最後に彼女からの電話は切れた。彼女たちが調べた地点は、どれも駅が近い場所だ。まだ本命の数カ所は、バイク組に向かわせている。
そこで、私は拓海さんが見つけてきた携帯のことを思い出した。これは、一体何故残されていたのだろう……。
そのメールが来たのは、二十二時のメールが来てから五分経たない内だった。
『残された携帯、明日の朝までに達也さんを発見できなかった時、もし使わないなら私に使わせて
最後に、最高の彼の去り方を演出してみせるわ』
ちひろさんからのメールだった。私は、何を託されたか理解した。彼は私に託したのか。真実ではなく、アイドル達にとって都合のいい言葉を伝える仕事を、彼の死後に。
私は携帯を投げた。無意識の内にそれはソファーに向かって飛んでいき、何度か弾んだ後床に落ちた。
二十三時。心臓が高く鳴り響く。酷く喉が乾いていることに気がついていたが、何も喉を通りそうにないので水を飲まなかった。
無限に思えそうな、ただ思い返せばまるで一瞬だったかのような一時間だった。それはそうだろう。時計を見ながら時を意識し集中はするのだが、結局何もしないから脳には何も残らないのだ。思い返したところで一瞬のように感じるだろう。
私は、ただ待った。
時計の秒針が、もう何度回ったかわからない頃、麗さんから電話が来た。
「私達が旅行に来た時の旅館に来たが、彼も、彼の車も見当たらない。一応旅館の人にも伺ったが、達也に似た人間が泊まりに来たこともないそうだ」
そこまで言うと、彼女の声が遠ざかり、何やら人に訪ねているような言葉が並んだ。恐らく誰かに達也さんの人相を伝え、似た人がいたか聞いているのだろう。
「男が一人、昼間にここの近くに居たらしい。何でも足湯に使っていたとか。もしかしたら彼ということもある。もう一度近辺を探す」
結局私から何も言うこともなく電話は切れた。私は電話を切った時、今の時刻を知った。日付が、いつの間にか変わっていた。
それから、美世さんと拓海さんからの連絡を受け、今は私と
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