暁 〜小説投稿サイト〜
MA芸能事務所
偏に、彼に祝福を。
第二章
六話 惰性
[3/3]

[8]前話 [9] 最初 [1]後書き [2]次話
を受けているのは本当だろう。
「彼女が芸能事務所に来る前から、私の親は達也さんに自身の会社で働かないかと提案していたの。断っていた彼だけど、美香が来てすぐに事務所に来たわ。口では言ってなかったけど、美香のプロデュースをしたがってたのは明らかだった。
 私の親は彼に美香のプロデュースを命じた。マネージャーのようなこともさせていたわ。 美香は才能があった。歌も良かったし、今までバレエをしていたからダンスの上達も早かった。プロポーションも、悪くなかった。
 昨年の暮れ、私達は新しい事務所を任せられることになった。ここのことね。事務員として私、プロデューサーとして達也さん。そして一人目のアイドルとして美香を連れて。この事務所はこの三人で、どんどん大きくしていく予定だった。私も、達也さんも美香も、私の親に試されていた。
 彼女は一度そこで切ると、慌てふためくゆかりさん達を眺めた。その目は、とてもやさしい。
「去年の二月、美香は死体となって見つかった。恐らくは事故だったわ。初めに遺体を見つけたのは達也さんだった。
 そんな状況でも、私達は事務所をどうにかしなければならなかった。私達は事務所の名前を変えて何事もなかったように新人を募り始めた。その頃は忙しかった。だから達也さんも狂っていた事に気づいたのはずっと後だった。美香を追ってきた彼が、その対象が不意に消えてしまったせいで今はその惰性で動き続けていると気づいた時はもう、この事務所の為にもそのままにしておくことしかできなかった」
 大体の事はわかってきた。後尋ねることは幾つかのこと。
「それでも、何故自殺を……」
「彼は、足が止まってしまった。もう彼は貴方達の為には動けない。今の彼は唯の人形。そんな姿を皆に見せたくはなかったのか。はたまた別の理由があったのかは分からない」
「貴方はそれでいいのですか?」
「良い訳ないでしょ!」
 突然の大声に、事務所の中が静まり返り、皆がちひろさんのほうを向いた。ちひろさんはそれを全く意に介さない。
「だから私は貴方達に全て賭けた。勝利報酬の言葉遊びも、辞職届の受理を遅らせもした。彼に対する最初で最後の裏切りよ。
 私が幾ら言葉を重ねても彼は変えられなかった。けど貴方達なら彼をこのゲームで変えられるかもしれない。だから貴方達は何としても彼を見つけて」
 きっと、彼女は悔しいのだ。長く共にいた自身は何もできないことに。
 だから、それに私は、笑顔で答える。
「お任せください」
 時計を確認する。二十一時十分。ゲーム終了まで残り五十分。時間はもう、ない。
[8]前話 [9] 最初 [1]後書き [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ