第三章、その5の2:一日の終わり
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せて彼女を血池に打ち倒した。彼女の手から剣が零れ落ち、悲鳴が漏れた。
「うぎぃっ・・・!!」
男はすぐさま手を滑らせて、彼女のしなやかな頸元に指を掛ける。銀色の髪が見る見るうちに鮮血を吸っていき、その猫のような瞳が瞳孔を開くように見開かれる。白き顔色が酸素の不足を訴えるように赤みを増していき、男の指がパウリナの頸に食い込んでいった。
「がぁぁ・・・き・・・あああっ・・・こっぁぁ!!」
身動ぎをして、或いは男の横っ面を殴ったりして抵抗の意を表していくが、男は全く意に介する事無く己の行為へ傾注している。パウリナの口元が魚のように喘ぎ、目端に涙が溜まっていく。
脳を揺らされて昏倒しかけていた慧卓は、ふらつく身体に鞭を打ちながら身を起こす。
(・・・ここで、ここで動かなきゃっ・・・パウリナさんを見殺しになんか、出来ないっ・・・!!)
足元に転がっている剣を掴み取り、ぎりぎりと歯を食い縛って立ち上がる。
(・・・意固地になって、我武者羅に、生きていくんだ!!)
慧卓はふらついて項垂れかかった頭を上げて、胸を張り上げた咆哮を吐き出しながら、剣を腰溜めに構えて男に向かって疾駆していく。
「おおおおおおおおっっっっ!!!!」
慧卓の叫びを聞いて男はさっと目線を遣り、パウリナから手を離して彼女の剣を奪おうと手を伸ばす。その瞬間、暫くの間聞いていなかった、若き獅子の雄叫びを聞き取った。
「あああああああっっ!!!!」
それが何かを意識するより前に、男の手首が鉄刃によって裁断された。視線を這わせて漸く理解する。鎧の胴の辺りを凹ませて口元から血反吐を零しつつも鋭く尖れた牙のような瞳を浮かべた、ミルカが其処に居た。
男は両手を切落されて尚も従順に命令を実行しようと足に力を入れる。途端に、男の側頭部から反対側の頬に掛けて公然として熱いものが貫いて己を主張していき、男の顔付きがはっとしたものへと変じた。その鉄面皮を崩したのは、猛然と突き立てられて肉肌を切り裂いた、慧卓の剣であった。男の身体がびりびりと震えて、力無く口元が開かれた。
「あ・・・・・・こ・・・」
血泡が篭って沈鬱となった声を掻き消すように、ミルカの全力の一振りが男の頚部に閃いた。頸がパウリナの身体に当たって地面を跳ねていき、柱に当たってその呆気に取られた表情をまざまざと見せ付けた。
慧卓は男の身体を横に蹴り倒し、それに息が無い事を確りと確認する。如何なる傷を負っても只管に対峙していた鉄面皮が、首を失っても尚浮かべられているのかと心配になったのだ。だが頸を失った体躯に、表情など浮かべられる筈も無い。それに気付いて漸く慧卓は心からの安堵を浮かべ、そして疲れ切ったように血池に尻を着いた。
「ぜぇ・・・ぜぇ・・・ぜ
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