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王道を走れば:幻想にて
第三章、その5の2:一日の終わり
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ように後背へと退き、袈裟懸けの一刀を胸先三寸で裂ける。而して更に足を詰め寄らせる男の突きに態勢を崩し、続いての胴払いを剣越しに受けて、膂力のままに壁に身体を打ちつけた。胸の痛みが更に増していく。

「うげっ!?」
「ケイタクさんっ!!」

 慧卓への接近を許さぬとばかりにパウリナが踊りかかるも、男の牽制の一振りにたたらを踏みかけ、そして次の一刀を前に身体を大きく後退させる。男が慧卓に向かって振り返ろうとした瞬間、その右腕に鋭き一閃が走った。

「おらぁっ!!」

 痛みを抱えつつも振るわれた慧卓の反撃の剣が、肘辺りの継ぎ目を掠めて肉を削いだのだ。男はすぐさま踵を反転させ剣を振り抜くも、正眼に構えられた剣によって防がれる。慧卓は続いて迫っていく二の剣、三の剣を柱の影にさっと隠れてやり過ごす。土のようにぼろぼろと毀れる石の欠片を尻目に、そのまま影に隠れながら壁伝いにパウリナの下へと駆け寄っていった。

「ケイタクさん、無事で!?」
「・・・胸がちょっと痺れただけだ。お前こそ、大丈夫か?」
「え、えぇ。ちょっと慣れてないだけですから」

 そういって彼女は剣を持った腕をぶんぶんと振った。言葉通りのようだ、男の一刀を真正面から受けた彼女の腕は緊張しているかのように震えを来していた。慧卓は荒げた息を整えようともせず、顔に流れる己の血を拭いながら男を見詰める。  

(信じられない・・・左腕はもうほとんど振れるような状態じゃないのにっ・・・)

 男の左腕は肉数センチを残してほとんどが裁断されかかっており、常人であれば明瞭なまでに死に近き状態であるが、男はその奇怪な魔術のためか何の支障も無いかのように凶刃を振るい続けている。それでも恵まれた状況と入れるだろう、何せ腕一本が死んでいるのだから。剣術が碌に出来ぬ素人二人で膂力凄まじき男に抗する事出来ているのは、疑いようも無くミルカの奮迅のお陰であった。彼のお陰で左腕が完全に死に体となり、その分の膂力が剣に注がれなくなったのだ。
 加えて慧卓は一つの確信を得ていた。ミルカの一刀を受けて多大な血液を流出してから、徐々にであるが男の敏捷さが消えていっているのだ。今では慧卓の全力の一刀とほぼ同等なまでに速度を落とし、それが為に気を張り詰めていれば剣閃を受けきれる状況と成っており、更には男に対して一刀を加える事が出来た。明らかに男は時と共に弱体化している。 

(左腕は千切れかけて、右腕にも裂傷を負わせた。出血も凄まじい。おそらく顔に出ていないだけで、身体のダメージはかなりのものだろう。ひょっとしたら、今ももうかなり危ういとか?)

 俄かな願望に満ちた推測は、今や確信へと変わりつつあった。それは明確な根拠を持ち合わせぬ夢想に等しきものであったが、圧倒的な存在に立ち向かう己を鼓舞するには
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