第三章、その5の2:一日の終わり
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畏怖が身体を支配したんだ。目の前に立つ人間が最早自分の親とは思えなかった。己の持つ常識や良心、そして正義を虫のように踏み躙る、人の皮を被った魔人、そのものに見えた。
あいつは突然生暖かな瞳をしてこう言ったよ。
『ビーラ。突然だが、君を今日限りで解雇するよ』
『ッ!!』
『私の次なる実験には君のような劣悪な助手では満足な結果を生み出す事が出来ない。君が唯の他人ならば実験の出汁として搾り取っていた所だが、私は君の親でもある。よって温情を働かせようと思う。それを飲んでとっとと消え給え』
正直、助かったという思いが真っ先に浮かんできた。だがその思いに浸るだけに留まらなかったのは、俺の僅かな勇気のためだったかもしれない。俺は直ぐに立ち去ればいいものの奴に事の真意を確かめようとした。
『・・・あの時・・・俺ガ向かっタ樹林で商人ト話して居た男。あれは矢張り・・・』
『ユミルだよ。最近、随分と調子が良い様子で公然と私に抵抗するようになって来てね。研究の一つが大詰めを迎えようとしているのに、手駒の一つが反旗を翻しては適わない。時が過ぎればその犯行は物理的な意味合いを帯びてくるやもしれない。だからだよ、彼をおびき出して殺そうとしたのは。
・・・作戦は失敗したようだが、奴が学院から離れた以上それも無問題だ。既に殺人の罪で賞金頸の申請を通している。明日中には、憲兵から手配書も配布されるだろう。奴の居場所は最早この近辺には存在しなくなるだろう、清々するね』
『・・・お前ニとって・・・』
『ん?』
『お前ニとって、友人トハ、子供トハ、家畜ノ餌でしかないのカ?』
『・・・誰を餌と見るかは私の価値観によるな。少なくともこいつらは餌だ。・・・君はまだ好きな人間に部類する、殺すような真似はしたくない。
・・・酒の隣に、金貨を詰めた袋がある。傭兵に出す金だったのだが、君が持っていって構わない。これから先、好きに生きていくが良い』
そう言ってあいつは背を向けて、更に肉塊を弄くり始めた。奴の指が握る小さな針が、更なる魂を欲するように血を浴びて輝いていた。俺はもう其処に立っていられるのが我慢出来なくなって、酒樽を殴り飛ばすように小銭袋を掴んで逃げ出した。学院から、北方から、そして王国から逃げ出して帝国まで落ち延び、其処で金貨を叩いて浴びるように麻薬を貪り、強盗で身を窶した。情けない事に、あいつから教わった意識魔法が強盗の助けとなったんだ。
・・・これが俺のこれまでの人生だ。本当に情けない、同情のしようも無い男だろう?そういうものなんだよ、俺は。
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ひゅんと風を切るような鋭い音が響き、それに続くようにぴちゃぴちゃと水を散らすような足音が鳴った。鍔迫り合いに容易く負けた慧卓は勢いに乗る
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