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王道を走れば:幻想にて
第三章、その5の2:一日の終わり
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食道に残っていた吐瀉物が再び込み上げてきて、パウリナはまた顔を背けた。
 慧卓はすくっと立ち上がって部屋の左方へと、ミルカは右方へと足を運んでいく。

(さて・・・どうしたものですかね)

 階段の前に立ち塞がる無機質な男を見詰めながらミルカは思考を巡らせた。
 
(人に非ざる膂力、人に非ざる無感動ぶり。ただの憲兵が自力でなんとかしているとは思えない。何らかの呪縛が施されていると考えた方がいいでしょう・・・)

 持てるだけの神経を注ぎながら、ミルカは悟られぬように荒げた息を整えていく。男は鉄のような無表情を浮かべたまま、赤黒い眼光を地面に落とし、上段の構えを崩さないでいる

(・・・しかし幸運は尽きていない。数合以内なら此方だって剣を打ち合える。相手も確実に肉体の限界に近付いているんだ・・・。速さとタイミングで、一気に決めましょう)

 ミルカの歩が止まり、それに合わせて慧卓も遅れて歩を止めた。両者、共に男から数メートルほどの位置に立ち、身動ぎもせずに針のような視線を男に注いでいた。

「・・・はぁ・・・はぁ」

 慧卓は己の胸の中で鳴り止まぬ心臓の音に口を開き、其処から何度も荒れた息を零していた。血肉を刻み合う初めての実戦に、彼の精神はどんどんと窮しているようである。而して己よりも若く、そして経験豊かであるミルカが奮起してくれているだけあってか、心に幾許かの余裕が生まれて、そして己の鼓舞にも繋がっている。
 それが勇み足と繋がったのか、慧卓は剣を正眼に構えてすすと靴を擦り合わせて男へと近寄っていく。ミルカが目敏く視線を向けるが黙したままだ。時代劇での歩方を思い出しながら慧卓は足を近付け、その爪先で血の溜まりをぴちゃっと踏みしめた。瞬間、男の狂気の視線が慧卓に向かった。

「っ!!」

 慧卓はそれに呼応するように剣を振り上げて一気に袈裟懸けに斬る。隙の多い一手であるが故に男の剣がそれを受けようと振られるが先んじて機転を制したお陰か、または鍛錬のお陰か、慧卓の剣が最高の勢いを得た瞬間に男の剣を迎えた。一段と強く甲高い音を鳴らして剣同士が弾き合い、男の剣が俄かに引き戻された。隠しようの無い隙であった。

「ああああああぁぁっ!!」
 
 咆哮を上げながらミルカは一気に疾駆する。男がそれに反応して剣を向けようとするも、機転を制した慧卓が逆に詰め寄ってきてその手を柱に押さえ込んで拘束する。男は空いた手でそれを引き剥がそうとするが、この瞬間、男の左肩は完全な隙を晒していた。ミルカはそれを逃さず鎧と鎧の継ぎ目、その肩の部分に剣を滑らせた。そして勢いのままにそれを振り下ろす。鋼鉄の肌と比べればまるで木屑のような軟弱さを持ったその継ぎ目が裁断され、中の肉に鉄刃が一気に侵食していった。剣を握る手から肉を断ち切る感触が伝わ
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