第7話 嫌いじゃないわ
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という事を考えると、それ以上言う気にはなれなかった。
「……"貧乏人の大古くん達を自ら憐れんで、モノを恵んでやっている"……自分で作り出した筋書きを自ら信じ込む事が、勝俣くんにとっての生存戦略だったのよ。それを否定するような行動、彼を憐れんだような行動をしたあなたは、自分の生存戦略を揺るがす敵として彼の目には映ったの。しょっちゅうモノをタカってくる、大古くん以上に、ね」
高田は淡々と、絵葉書から目を逸らす事もなく語る。小倉は歯ぎしりした。何でこの小娘は、こうも見透かしてやがるんだ。無表情で、何にも関心が無さそうで、その癖、誰より人を分かっているように思える。分かっているのに、いや、分かっているからか、諦めの態度が目立つ。
「……ねえ、あの人達を見て。」
高田が絵葉書から目を上げて、百貨店の中を歩く一団を指差した。小倉もその指が指す光景に目をやる。この近くの現場での仕事終わりなのだろう、汚れた繋ぎを着た作業員が、談笑しながら百貨店内の飲食店に向かっていた。
「……充実しているように、見えるでしょ」
「あ、ああ」
「負け組よ、彼ら全員」
小倉はズッコケた。楽しそうな人間の一団を指差して、いきなり負け組呼ばわりとは。聞こえていたら絡まれるこ間違いなしである。
「この国での肉体労働者の待遇はけして良いとは言えない。教育にかける資金なんて無いから、子どもはよくて高校止まりで、低学歴の肉体労働者になり、その子ども、その子どもと、どんどん貧乏人が再生産されていく。本来平等なはずの人間の上下は、学の有無で決まると説いたのは福沢諭吉だったかしら?でも彼らには、学を修められる土壌が無いし、学力すらも決して、平等な指標にはなりえないのよ」
「……」
「でも、彼らは楽しそうよね。どうしようもない不平等の中で、状況を受け入れて、その中での幸せを見つける事を覚えたのよ。彼らにとっては、仕事終わりのビールの一杯が何よりの幸せよ。例えそれが数百円の、とても安上がりな幸せでもね。……彼らに、あなた達は底辺労働者の負け組だと指摘しても、恐らく聞く耳を持たないわ。世の中は金じゃない、俺は今幸せだ……そう言って否定するでしょうね。」
そうか、それと同じってか。小倉は心の中で呟いた。DQNにビビって、せびられるままに金を出す自分の状況を「自分から面倒見ている」と読み替えた勝俣も、経済的弱者である自分の在り方を「金=幸せじゃない」という言説を引用して肯定した肉体労働者達も、変えられない状況に対して、自分自身の考えや価値観の方を適応させていったという点では変わらないだろう。いや、実は彼らだけではない。自分自身もそうだ。転校したが為に、二度と高校野球ができない今の状況を、「甲洋以外で高校野球をする気はない」という考えで
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