偏に、彼に祝福を。
第二章
二話 小細工
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は離れていた。
急な出来事に唖然とする私と慶さん。畳み掛けるように、一人クラリスさんが口を開く。
「お願いします。どうか」
彼は天井を仰いで、嗚呼、と呟いた。そうして顔をまたこちらに向けた時、彼は笑っていた。
「分かった。ゲームをしよう。さっきのちひろさんが言ったとおり俺がルールを決めていいな?」
「勿論です。ただ私達が勝てば……」
「分かっている。その代わり俺が勝ったらお前たちは一切今後俺と関わらない。いいよな?」
ええ。ええ。有難うございますと頭を下げる彼女は、満面の笑みだった。
その後仕事が入っていたクラリスさんを寮で待ち、彼女が帰宅してから私の部屋に招いた。
「クラリスさん、どういうことですか?」
「どういうとは?」
彼女は本当にわからないわけではない。続きを促すための問い返しなのだと、私は気づいた。人と長く接する職業故のテクニックだろうか。
「彼が辞めた後に全て知ったところでどうするんです! 手遅れじゃないですか」
「そう思っていたから、達也様は受け入れたのです。彼は負けても勝っても自身の目的が完遂するので。私はそうはさせませんが」
彼女の発言に違和感を覚える。一つは、彼女にしては意志の強さが見える最後の言葉。もう一つは一言目の―――。
「そう思っていたから?」
「ええ。彼は直前の慶さんからの詰め寄られたこと、そして泰葉さん、貴方に核心を突かれたことで動揺していたんですよ。彼は、てっきり詰め寄ってきた慶さんの『全てを話すこと』だと思った。だけれど違います。ちひろさんはきちんと言いましたよ? 『彼女たちが勝てば彼女のさっきのお願いをきく』としっかり貴方を見て」
私の、お願い? 私は何と発言した? 始めた理由は何ですかと尋ねた。だがこれはお願いではない質問で、既に答えは得られている。ならその前の私の発言の中に答えはある。
「あ……つまり」
最初の、一言。
「私達の勝利報酬は、泰葉さんが言ったお願いです。貴方は質問こそしてもお願いは一度しか言っていません。あの時、達也様を見つけた泰葉さんが初めに言ったお願い、『辞めないでください』です」
「ですが、ゲームは彼が辞めてからスタートと……」
けれど、辞めた後に辞めないでくださいの願いは叶うのだろうか? そもそも辞めているなら私の願いは破綻する。
「僅かに違います。彼が退職届を提出した後、恐らくは今月の暮れのにゲームは行われます。ですがゲームの開催条件に彼の退職は入っていません。……先ほどちひろさんに掛けあって、正式な彼の退職をゲームの後にしてもらいました。私はゲームの後責任をどんな形でも取りましょう。ちひろさんも思いは同じです」
「っ! 私も勿論一緒に罰を受けます。……ですがちひろさんも?」
「そもそもこの状況は彼女が作り出したのです
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