暁 〜小説投稿サイト〜
MA芸能事務所
偏に、彼に祝福を。
第二章
二話 小細工
[1/3]

[8]前話 前書き [1] 最後 [2]次話
「達也さん!」
 私達はレッスンを済ませると、早速達也さんの元へ向かった。彼はいつも通り労いの言葉をかけてくれる。
 だが、この先はどうしよう。何も考えていなかったことに今痛烈に後悔する。
「辞めないでください」
 結局口をついて出たのはいつもと変わらない言葉で、彼はその言葉を受け取るとやっぱりいつも通りの困ったような笑顔を浮かべた。
「すまないな。けど、そう我儘を言わないでくれ。お前たちは十分力をつけてきた。俺が居なくても大丈夫さ」
 いつも通りの彼の言葉は、先の話し合いのせいでいつもとは全く違う響きで私に聞こえる。それは、ともすれば人形から発せられる合成音声のような……。
「達也様、いつ頃から辞めようと思っていたのですか?」
「一月頃だな。それくらいから俺の業務を他に回せるようにしてきた」
 一月頃、達也さんが倒れ、慶さん達が、彼を変えると宣言した頃。彼の異常性が事務所内で広まった頃。
 そして、何人ものアイドル達が動揺のあまり仕事を失敗していた頃。好意からの逃亡と彼の最後の奉仕の決意が固められたのはその時期。辞める動機は分かった。ならば、後聞きたいことは一つだけ。
「なら、もう一つ質問です。達也さんは何故プロデューサーになったのですか?」
 彼は軽く驚いた顔をして、暫し黙った。核心を突いた感覚。
 彼は、初めから辞めることを前提としていないと思う。彼の一月から辞めることを決心したという発言もそれを裏付ける。なら、プロデューサーを始めるに至ったその瞬間の彼を知りたい。
「一人の女性を、アイドルにしようと思った」
 無機質な言葉は、私には本当かどうか区別がつかない。唯一知りうる程の観察眼を持つクラリスさんを見ると。微笑みを湛えていた。恐らくは嘘ではない。
「誰ですか?」
 食いついた慶さんを一瞥すると、彼は首を横に振った。
「お前たちは名前を知らないさ」
「教えてください。何もかも」
 達也さんは慶さんの肩を両手で掴んで離し、私達を見回す。
「教えるわけにはいかない」
「では、どうすれば教えて下さいますか?」
 駄目だ、と口を開いた彼に、横合いから声が掛けられた。
「ゲームをしてはどうですか?」
 声の主に私も、慶さんもクラリスさんも驚いた。この事務所にいつも居て、そして達也さんと一番近い立場で一番近くに居て、そうして今の今まで彼に業務以外の話をしてこなかった人。
 千川ちひろ。達也さんの退職について何も言わなかった人が、ここに来ての発言。何か理由があるのだろうか。
「……ゲームですか」
「ええ。彼女たちが勝てば彼女のさっきのお願いをきく。貴方が勝てば……それはお互い話し合って。挑まれた貴方がルールを決めればいいでしょう? 貴方が退職後に何を話しても私は関与しませんよ」
 それだけ言うと、ちひろさん
[8]前話 前書き [1] 最後 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ