偏に、彼に祝福を。
第二章
一話 不安
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いた、業務関連のことは既に新しいマネージャー等がこなし始め、彼が消えても問題なくなってきていた。彼は着々と消える準備をしている。
「結局、私は最後まで空回っただけか」
「違うと、信じたいですね。そもそも、何故彼は辞めるんでしょう」
慶さんは暫く悩んだが、意を決して話し始めた。
「何人か、達也さんに好意を感じている子がいるでしょう? この事務所は彼に集まった好意によって歪んできている。今はさほどの事じゃない。けど、その子たちが今より彼に依存すればきっといつか、モチベーションが保てない、アイドルで居られない子が出てくる。そうしないように彼は辞める」
何だ、それは。自身が初め自身が作り上げ、周りを巻き込み、当事者として申し分ない、いやそれどころではないほどの異常な献身を見せつつも、それに未練がない、とは。
レッスンルームの扉が開かれる。クラリスさんが、顔を覗かせていた。美しく伸びた金髪を後で結び、その手にはバスケット。白を貴重とした質素な服と相まって、まるでピクニックにでも出かける美女のような印象を受ける。
「差し入れを持ってきました。ご休憩されてはどうでしょう」
二人で礼を言って、彼女を招き入れた。
少し疑問に思う。普段、彼女はこんな事をしない。例え彼女が修道女と言ってもレッスンを中断させる形は取らない。終わってから労う限りだった。
「二人共、お悩み事でもあるのですか?」
そう口を開いた彼女。そこで私は彼女がここに来た理由を思い至った。私達の悩み事を察して、そうしてこのタイミングで差し入れという形を取ることで三人で話せる時間を確保したのか。
「そうです。しかし、よくわかりましたね。さすがは修道女といいますか」
上品にクラリスさんは笑う。
「ええ。今まで沢山の迷える子羊達に道を標しましたから……何て言えるほど、私は経験を積んでいませんよ。簡単な事です。泰葉さんと慶さんお二人とも調子がよくありません。それは達也さんが辞める事が知れ渡ってからです。そうしてお二人が共にする機会があるとするなら、信頼しあっているお二人の事です。悩み事を話さずには居られないだろうと思ったのです」
確かに考えてみれば、実に簡単なことだ。
「その通りです。……クラリスさんは、達也さんが辞めると聞いてどう思いますか?」
「私は……残念な他ありません」
私の問いに対しての答えは、本心にしか思えなかった。
「クラリスさん、聞いてほしいことがあるのです」
「とどのつまり、達也さんはその好意から逃げおおせる為に辞めると」
私はその言葉に頷くことは出来なかった。言葉にすると、何て馬鹿馬鹿しいことなのか。
「私と達也様は、似ているようで似ていないのですね」
「どういうことですか?」
「慶さん、私のプロフィール見たことありますよね?」
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