偏に、彼に祝福を。
第一章
七話 過労と計画
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テレビの取材や調整、ライブの準備に忙しい年末の頃の話である。
「ああ、そうだ。年末年始はお前も忙しいぞ?」
電話の向こうの相手に言う。凛達のライブの時に頼ったあの男だ。
「俺にも使える人間は限りがあるぞ? そうだな、どんなに頑張っても十人。それに誰もが若い。行動はできても腕っ節には自信がないぞ」
「わかっている。だが現にお前たちはあのライブの時きちんと行動してくれたじゃないか。あれから何度かお前に頼んでいるが、お前たちが怪しいやつに目を光らせてくれるお陰で抑止力になっているのは確かだ」
「だとしても……それに、お前その金どこから出てくるんだ? これ経費で落ちてるのか?」
「なわけあるか。ファンの万人に一人が暴走するかもしれないので、ライブの最前席にそれを抑える目的でさくら入れるお金って名前で計上できるわけねえだろ」
ご尤もという言葉が返ってくる。
「つまりこれ、お前の給料から来んのか?」
「ああ」
「馬鹿かよ。お前どうやって暮らしてんだよこれで。食費光熱費抜いたら何が残んだよ」
何も残らないねぇよ馬鹿。
「少しは残る。とりあえず年末年始は客もテンション上がっちゃってな。お前たちが必要なんだよ。金は渡すから」
「あー。わかったよ! たく……切るぞ」
ああ、と答えて携帯を耳から離すと、既に通話は切れていた。天井を仰ぎ見る。ちょっとずつ、目的に近づいてきている。年末年始は目的への近道だ。その前の出費など気にはしない。
扉を開け放つ音がした。目を向けると青木聖。ここはレッスンルームなので何も不思議なことはない。
「達也さん、皆もうシャワーを浴び終わったみたいだぞ」
わかったと声をかけ、出口へ向かう。聖は逆にレッスンルームに足を踏み入れ私とすれ違った。私が出る際中を振り返ると、私が電話をかけていた側に置いてあったバッグを探っている彼女がいたので、私はそのまま扉を閉めた。
自動販売機の前でアイドル達を回収した私は、事務所へ戻った。
そうして迎えた年末年始、事務所は多忙を極めた。なんとかそれが過ぎ去り一段落ついた一月の半ば、私は事務所で気を失った。意識が落ちる間際、女の姿を見た気がした。
病院で起きた私は、それから二日の後、あることを計画し、その準備を始めた。
病室の外から望む一月の街並みは、その寒空とコンクリートのせいで酷く無機質に見える。私はベッドの横に置かれた台に置かれた果物を眺めた。アイドル一同と名札がかかったバスケットに入ったそれを、今は食べる気にはなれなかった。
扉が二度叩かれる。私はすぐにどうぞと声をかけた。ここに来る人間はちひろさんか看護師だけだ。アイドルは来ないように言ってある。
だが、扉を開いた先にいた人物に私は驚いた。青木姉妹たちがそこに顔を覗かせていたから。
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