偏に、彼に祝福を。
第一章
三話 違和感
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凛が好調な売れ出しを見せ、加蓮が体力が伸びてきたことに自信を持ち、奈緒と簡単なアニメ談義を交わしている頃、事務所は新人を迎えた。佐藤みちる、もとい水本ゆかり。どうやら佐藤みちるは偽名だったらしい。私としてもその警戒心は咎める気もなく謝る彼女に寧ろ良い判断だったと賞賛の声をかけた。女性が用心するに越したことはないと私自身思っているからだ。
ゆかりはフルート奏者で、特に音感には自信があるとか。ただ体を動かすことが少ないからか体力は人並みにやや届かないほどであった。またその性格ゆえ肌を露出するモデルは好みでないらしい。こちらとしてもフルート奏者が水着を着ての撮影に乗り気であるとも思っていないのでそのような仕事は回さなかった。
十五という年齢はこの事務所の看板にもなっている渋谷凛らの一つ下にあたり、また体力のなさを加蓮が嘗ての自身に重ねて応援してくれるのでその点良かった。ただ、私が第一印象で彼女を十八かそこらだと思っていたことは加蓮から彼女の元へ伝わり、時たま加蓮によって弄られた。
高校大学と男が九割の学校を出た私にとっては女の年齢なんて分からない、何て言葉は流石に呑み込んで。
凛の頑張りやそこそこ有名になった奈緒のおかげで何とか赤字でなくぎりぎり黒字になれた事務所は、今までのコネクションや仕事取りの忙しさではなく予定やアポイントの忙しさにシフトしていった。これは嬉しい限りで、自ら頭を下げなくても仕事が入ってくることがあるのは一つの感動すら覚えた。奈緒のアニメ好きやその性格、凛の才能には頭の下がるばかりだ。
世間の学生が夏休みとなる期間になるとより事務所内は活気だった。凛のCDデビューのお蔭である程度のネームバリューが使えるようになれば、オーディションを受けて大手が掻っ攫わなかった人を取れたり、駅でのスカウトの成功率も上がった故だった。その内事務所は、私一人でプロデュースするには多い人数から、事務所として中々の規模へと推移した。
「そういえば、さ」
凛が、私とちひろさんに声をかけたのは七月の暮れの昼間だった。
「私が入ってきたころ、お仕事は余り無かったけどいやに二人とも忙しそうだったよね」
「ああ、あの頃はほかの会社との繋がりも薄かったしな。色んなところに回って挨拶して、オーディションの開催の部分に名前を入れてもらえるよう頭を下げて、トレーナーさんも何とかアポとって使えるようにしてもらって、あとは―――」
金の事。現在この事務所は結構な額の借金抱えてます。ちひろさんは最近まで生活費はフリーのライターやって稼いでました。私は友人の伝手で工場行ってました。何てものは飲み込んで。
「何?」
「色々だよ。色々」
ちひろさんは寝る間も惜しんで生活費を稼ぎ、私は早朝事務所日中工場夜事務所とかざらでした。
「ええ、色々
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