偏に、彼に祝福を。
第一章
一話 働き者
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た。髪が長く、木管楽器と思われるケースを持った少女だ。
「もし、今お時間は大丈夫ですか?」
話しかけた少女は怪訝な目でこちらを見る。当たり前の反応。
「私、MA芸能事務所の者です。大した身分証明にはなりませんが、一応名刺も」
あくまで身分証明の為にと名刺を差し出す。スカウトしたいのでどうぞと言っても受け取ってくれる人は少ない。キャッチにしか思われないからだ。
少女は足を止めてくれた。
「自己紹介を続けさせてもらうなら、私は今スカウトマンとしてこの駅周辺で見かけた方にお声を掛けさせてもらっています」
彼女の目を見て語る。彼女は眼を泳がせながらも名刺を受取った。
「失礼ながら、アイドルという職業に興味をおありで?」
無言。うん、見た目十代後半の少女らしい反応だ。
「ないならお捨て頂いても構いません。もし、お知り合いにでも興味がある方がいたらどうぞ遠慮なさらずお電話頂ければ」
続けて少女に軽く頭を下げた。解放された安堵の表情を浮かべた少女は、一応名刺をポケットに入れて小走りでこの場を離れた。
「ただいま戻りました」
「おかえりなさい」
事務所に帰った私を迎えたのはちひろさんただ一人。
時計を見ると十七時になっていた。
「誰か見つかりました?」
軽口を交えながら散々な結果を伝え、自身のデスクについた。PCをつけて幾つかのソフトを立ち上げ作業内容を読み込ませる。
りりりりと電話が鳴った。私の携帯の音だ。嘗ての黒電話を思いださせる音。
画面上には公衆電話の文字……一瞬迷ったが四度の呼び出し音を待ち応答ボタンを押した。
「はい、こちらMA芸能事務所の平間達也です」
「もしもし、……佐藤みちるというものですが、アイドル事務所で間違いありませんか?」
はいと間髪入れず答える。無用な間は要らない誤解を受けやすい。街角でのスカウト何てキャッチと何ら手法は変わらないのだ。こちらが本当の芸能事務所であることを理解してもらわなくてはならない。
「MA芸能事務所という名前は一般ではありませんが、そうですね。渋谷凛や北条加蓮などのアイドルが在籍しています。どちらもあまりテレビに出ていないので御存じであるとは思いませんが……」
こういう時、まだ駆け出しの事務所は弱い。ネームバリューを持っての信頼が構築できないのだから。
「アイドル以外には誰か在籍が?」
この質問に僅かに間を空けてしまった。現在はまだCDデビューにこぎつけたアイドルですら一人なのだ。ともすれば他の多数はアイドルというより毛が生えた一般人……。
「いえ、在籍してはいません。ですが私どもそのような人材も迎えたいと思っています」
五秒程の間が空いた。
「ご興味があるようならば事務所においでなすってはどうでしょう。お話だけでも歓迎いたします
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