偏に、彼に祝福を。
第一章
一話 働き者
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は勢いよく上半身を起こした。僅かに乱れた髪やよれた服が、そして何より力のこもらぬ瞳が今の彼女を良く表している。
「おはようございます」
それだけ言って彼女の元から離れた。彼女も女だ。寝起き何て男にまじまじ見られたくもないだろう。事実彼女はああ、どうもとだけ呟いてすぐにシャワールームに消えていった。
アイドル達はこれから十分程で顔を出し始める。それまでにちひろさんは自身のデスクに戻れるかどうかと心配をしながら、私は事務作業に戻った。
事務所のドアが開けられる音がする。ドアより先に自身のPCのモニターで時間を確認した。八時四十五分。ちひろさんはまだ帰ってきていない。
「おはようございます」
声が扉のほうから聞こえたので視線を向けた。渋谷凛、私のプロデュースするアイドルで、CD発売を控えている。
「ああ、おはよう」
最低限の言葉を彼女の目を見て応え、またモニターに向かった。渋谷凛の文字が其処にある。彼女の今後の予定表だった。CDが出せるなら、それを火種に彼女自身をより強く、敢えて言うなら大胆にPRを図りたい。だがCDの売れ行き次第で過激なPRはその経費に見合う効果を生み出せない。プロデュース業が短いのもあってそのリスクコントロールが簡単にはできていないので悩んでいるのだ。
渋谷凛はこちらに歩いてきた。私の後方にソファーがあるのでそこで休むのだろう。早めにくる彼女の定番だ。
「どうしたの、悩み事?」
だが彼女はソファーに向かわず、私の傍で足を止めた。
「ん? ああ、そうだな。何せ人が多いからな」
適当な言葉を彼女に返す。彼女のスケジュールで悩んでいるのだが、本人に私の経験不足でリスク管理に苦労してるなんて言っても困らせるだけだろう。
「ふーん、そう。大変だね。頑張って」
応と応えると、彼女はソファーに向かった。年上に対する言葉遣いとしては良くないが、プロデューサーとアイドルという言わば仲間関係ならそれを咎める理由もあまりない。それよりも彼女が他人を心配するという心優しさを評価するべきだろう。
「お茶どうぞ」
背後から伸びた手が、私のデスクにお茶を置いた。振り向きありがとうございますと手の主、ちひろさんにお礼を返す。
恐らくはちひろさんは、凛が来た時にシャワールームから出てきてそのまま給仕室に行き、凛にシャワーを浴びていた事を悟らせない為今まで給仕室にいた振りをしたのだ。
「凛来てますよ」
僅かに左手を上げて了解の意を示したちひろさんは、ソファーが見える位置まで移動し凛に挨拶をして戻ってきた。
「どうも」
「どうも」
すべてを察しあう彼女とお礼を交わし、私はまた自身の事務作業に没頭した。
その後神谷奈緒、北条加蓮のが来た時点で三人を集め、今日のスケジュールを確認。三人の付き添い
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