義手の天才
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常界〈テラスティア〉のはずれのはずれ、誰も近づかないエリアの一画。
六つの研究所が立ち並ぶ立ち入り禁止区域に彼女はいた。
「ほんと、ボスは人使いが荒すぎるんですよ」
若い女性の声が火焔研〈フロギストン〉に響く。
資料で散らかった机に座って長い金髪を指でクルクル巻きながら愚痴っていた。
「いつもいつもすみません、ちょっと何かが壊れたくらいですぐ修理だなんだーって、自分は来ないくせに」
「まぁまぁ気にしなさんな、俺は聖王様よりもベティちゃんが来てくれた方が嬉しいけどな、ほい、完成だ」
そう言って女性に修理したラジオを手渡した。
聖銃士ベディヴィア、円卓の騎士の一人である彼女はいつも聖王であるアーサーのお使いを頼まれていた。
死んだはずの天才、そんな彼に壊れた(壊した)品々の修理してもらっている。
「相変わらずすごいですね、このラジオさっきまで真っ二つだったって信じられないですよ」
「機械の操り方なんてこんなもんだ、ささ、玄関まで送って行くよ」
死んだはずの天才は研究室用の白衣は適当に投げ捨てて、代わりに着る外出用のジャケットをゴミの山から発掘しはじめた。
「いいですよ、いつも来てるから道もわかりますよ」
「つれないなぁ、お、あったあった、俺も今日はおてんとさまに用があるんだよ」
彼は死んだとされていた。
ある事故による爆発は彼がいた研究所を粉々にし、また彼も発見されなかった。
ゆえに外に出ることは許されていないし彼も好んで出ようとは思わなかった。
「珍しいですね、ゴミ山でも漁りに行くんですか?」
だからベディヴィアも冗談として流す気でいた、彼の言葉はいつも通り胡散臭かったから。
「ぶっ倒さなきゃならん奴がこっちに来てんだよ」
どこまでが本当でどこからが嘘なのか、炎才パブロフの言葉を彼女は知ることはなかった。
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