プロローグ 姫君とナイトと和菓子屋さん(2)
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にしか置いていない。
おじいちゃんは一端奥に入って、直ぐにずっしりとした白いビニール袋を渡してくれた。
このおじいちゃん、もともと大阪育ちで若いときには老舗の和菓子屋さんで修行して、それからこっちで店を開いたそうだ。
純関西弁っていうのかな、あたしの周りでは聞けない言葉は何となく温かく心持ちが落ち着く感じがする。
「えっと、これで良いかな?」
財布の中から自分でも確認しながらお盆の上に硬貨を並べる。
500円玉が一枚に100円玉が二枚と50円玉が三枚。
何だってあたしの財布には50円玉が三枚も入ってたんだろ、きちんと小銭から使ってるつもりなんだけどなぁ。
「まいどおおきに。嬢ちゃんにはいつもお世話になりまんなぁ。」
「ありがとう、そりゃおじいちゃんのとっても美味しいからね。常連にだってなるよ」
ビニール袋に包まれたプラスチックの容器を受け取って中身を覗く、何となく持ったときに重く感じたからだ。
すると頼んだ物より二つも多い六個のお餅が入っていた。
「っておじいちゃん。あたし、きなこ餅は頼んでないってば。」
「サービスやって。一番安いんやからワシの方もそんなようけ損してる訳や無いがな」
「いやいや、サービスにしても二つは多いでしょ。」
「嬢ちゃんがこんな時間にここにおって、それやのに和菓子を買うてる暇がある言うんや、なんかあったんやろ?」
にやりと笑うおじいちゃんは、たぶんだけど待ち合わせの場所にあたしが早くに着きすぎたことも分かっているに違いない。
「ワシの勝手な想像なんやけど、嬢ちゃんが朝早くに起きてしまったんが原因ちゃうやろか。」
「………何でそこまで分かるのさ。」
確かにおじいちゃんとは時々話をしたりもするけどさ、そこまで当ててくるなんてエスパーか、ったく。
「そりゃ嬢ちゃんもよう来てくれはるお客さんやからの。常連さんは神様さかい、顔も覚えりゃ当たりもつくっちゅうこっちゃな。」
あっはっはと朗らかに笑うおじいちゃんに、つられてあたしも笑ってしまった。
「そうそう、ついでに別嬪さんにゃ笑顔が一番っちゅうこっちゃね。」
「巧いこといったつもりじゃないでしょうね?」
「ワシは嬢ちゃんが笑顔やったらうれしいっちゅうだけやねんけどな」
困った顔をで苦笑いを浮かべていたおじいちゃんは、あたしの向こうの方に目をやり渋い顔に変わった。
「どうかしたの?」
「ん、いや無いこっちゃないんやけどな…」
あっちを見て見ろと言わんばかりにおじいちゃんは顎を向こうの方にしゃくってみせた。
おじいちゃんの示す方をあたしも振り返ってみると今まで気にしたことさえ無かったけれど、そこには大きな桜が一本植えられた公園があった。
今が見頃と言わんばかりのその大きな桜の木一杯に薄紅色の花弁が咲き綻んでいる。
目を凝らしてみると
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