暁 〜小説投稿サイト〜
久し振り
第三章

[8]前話 [2]次話

第三章

「誰もな」
「お客さんは」
 今はカップルがカウンターに一組、テーブルに二組、おばさんの二人連れがテーブルにいる。他はスーツのサラリーマン風の中年が三人程度あちこちに座っている。
 そしてカウンターに。何かやけに小さい女の子がいるだけである。
「これだけだよな」
「いないんだよ」 
 俊は眉を顰めさせ口を尖らせて述べた。
「これが」
「いないっておい」
「だからいないんだって」
 言葉は繰り返される。
「これがな」
「あれっ、けれど」
「携帯じゃ連絡があるんだよ」
 それはあるというのだ。そうしてそのうえで携帯を見せる。するとそこには確かにメールの返信が入っていた。顔文字まで付いている明るい文章である。
「なっ、これな」
「確かにあるな」
「ここだってはっきり書いてあるよな」
「マジックってな」
「それでこの店にいるってな」
「ああ」
 彼が見ても確かに書かれている。俊の言う通りである。
「それは間違いないな」
「けれどいないんだよ」
 彼はまた言った。
「誰もな」
「けれど女の子が一人いるぞ」
 カウンターのその女の子を見て俊に話す。
「ほら、あの娘」
「あの娘か?」
「そうじゃないのか?」
 彼女ではないかというのだ。
「あの娘じゃな」
「全然違うんだけれどな」
 あらためて言う彼だった。
「何もかもがな」
「結構大きかったんだよな」
「同じ年齢の女の子の中ではな」
 大きいというのだ。
「確かにな」
「そういえばそう言ってたよな」
「ああ、じゃあやっぱり」
「あの娘じゃないよ」
 カウンターのその娘を見ての言葉である。
「絶対にな」
「そうか。けれど一人でいる女の子って」
「だよなあ。あの娘しかいないし」
「どうなってんだ?」
 俊は首を傾げさせてしまった。
「あの娘がひょっとして」
「あっ、おい」
 彼はここでまた俊に声をかけた。
「そのカウンターの娘がな」
「んっ!?」
「あっ、お兄ちゃん」
 その女の子は急に明るい声を出してきた。見れば黒く長い髪をツインテールにした小柄な女の子である。目ははっきりとしていて眉はやや下に下がっている。全体的に幼さが見える身体つきである。それがミニスカートとセーターといった格好からわかる。
「久し振りです」
「久し振りって」
「まさか」
 俊は彼女の言葉を聞いてすぐに。驚きの声をあげた。
「杏ちゃん!?」
「はい、杏です」
 にこりと笑って答える彼女だった。
「元気なんですね、お兄ちゃんも」
「なんですって」
 俊がここで言ったのは言葉使いだった。

[8]前話 [2]次話


※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりをはさむしおりを挿む
しおりを解除しおりを解除

[7]小説案内ページ

[0]目次に戻る

TOPに戻る


暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ

2024 肥前のポチ