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青い春を生きる君たちへ
第5話 巡り合わせ
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ろ……?)


小倉は福山の顔に当てるための冷えタオルを絞りながら、ぼんやりと思った。しかし、その言葉は、次から次へと移りゆく事態にかき消されて、遂に最後まで、声に出す事は無かった。


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「おはようございます、葉鳥先生」
「お、来たか。ちょっと待ってくれ、この添削だけ済ませたい」


謹慎明けの早朝、謹慎中毎朝家を訪ねてくれた葉鳥に一応挨拶しておこうと、小倉は社会科職員室に顔を出した。他にはまだ誰も居ない部屋で葉鳥が一人、デスクに向かって小論文の添削を行っていた。三年生の進路指導だろうか。年明けの共通一次試験にはまだ時間があるが、この時期は指定校推薦などに向け、人格評価などという、イマイチ基準がハッキリしない試験をチョロまかす知恵をつける為必死になる時期だ。中堅校の松陽には、共通一次というシビアな学力試験で、本物のエリートと競り合えるような学力の生徒はそうそう居ない。分相応以上の大学にねじ込むには、各種推薦などの制度をフル活用して実力を誤魔化すのが有効だ。葉鳥は今、その手伝いをしているという訳なのだろう。


「……熱心なんですね?思ったより」
「どうして、熱心じゃないと思ったんだ?」


目を丸くした小倉の方を見る事もなく、葉鳥は尋ねた。


「そりゃ、昨日、クズどもがどうなろうと知ったこっちゃねえって、言ってませんでした?」
「……あのなあ、俺は"クズどもが"どうなろうと知ったこっちゃないって言っただけだぞ?それが何で、教師職全体のやる気の無さと結び付けられなくちゃならないんだ。クズどもが、こんな作文の添削を頼んでくると思うのか?」


葉鳥が呆れたように息をついた。小倉は、あ、と声が出た。確かに葉鳥は、生徒全員どうなろうが知ったこっちゃないと言った訳ではなかった。聞かん坊は放っておくと聞いただけなのを、何故か葉鳥の「生徒への関心の欠如」と解釈していた自分に気づいた。


「……別にお前に限った話じゃないが、教師の仕事は、クズのような生徒を劇的に変えることだなんて、妙な思い込みが世の中にはあるんだよな。そういうドラマは山ほどあるし。でもな、人間がそんなに簡単に変わるか?クズな高校生は15年以上かけてクズになっていったというのに、それをたかが学校に居る時間、最大でもたった三年顔を合わせるだけの教師が、ちょっと頑張れば変えられるのか?簡単に変えられると答えるのは、曲がりなりにも積み上げられてきた、個性に対する冒涜だと俺は思うね。」
「……じゃ、先生の仕事は何なんです?」
「できるだけ多くの、"普通の"生徒に対して、できるだけの助けをしてやる事だ。例えば、この添削みたいにな。守るべきは大多数を占める善良な生徒だよ。ごく少数のクズにかか
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