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青い春を生きる君たちへ
第4話 卑怯者
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てくれる、優しい世界に住んでいたからだ。


「……そうね。あなたは、彼をいじめただけだわ。」


小さな、しかしやけにはっきり聞き取れる澄んだ声が漏れた。田中のような活気のある声ではない。小倉はぎょっとして、そちらを向いた。高田がこちらを見ていた。モノを見るようなその目と、視線が触れ合う。何故だか、頭の中を見透かされたような、そんな気がした。


「……彼が普段の態度の大きさほどには喧嘩が強くないという事を見越して、それを分かった上で、彼の挑発に乗ったんでしょう?勝てる相手だと思ったから、売られた喧嘩を買ったんでしょう?彼とのやり取りの中で、あなたに戦いを避けようという意思は感じられなかったわ。相手から仕掛けてきて、戦う口実ができてラッキー、そんな事を考えはしなかった?非力な彼を嬲る事に、楽しさを感じたりしなかった?」
「…………」
「……卑怯、に思えるわね」


図星だった。小倉は少し、返す言葉に詰まった。確かに、小倉は積極的に大古を煽っていた。田中が仲裁に入った時、大古が安心する様子を見せたのを知っていて、あえて話を有耶無耶にさせる事なく、戦いの方向へ事態を進めた。いざ喧嘩になれば、こういう結果になる事は分かっていた。嗜虐心は確実にあった。調子に乗って、喧嘩なぞ仕掛けてきた大古の、鼻っ柱をへし折ってやろうという……


「……だったら、負ける相手にも見境なく吹っかける事がすなわち正々堂々だっていうのか?」


小倉の切り返しは、イマイチ歯切れが悪かった。高田は手元のグラスに手を伸ばし、茶を啜ってから答えた。


「……それもそれで、違うわね。でも、自分の強さに、本当に自信があるのなら……表面上でなじられようとも、グッと堪えて……負けておいてあげる……それができるはずよ。無闇やたらに、力を見せつけたりせずにね。……傷つける事が楽しくなってしまうと、世界は閉じていくわ」


窓の外に目をやりながら、最後は独り言のように、高田は言った。小倉は今度こそ返す言葉が無かった。やや高度を下げてきた太陽の陽射しに照らされた高田の横顔は、シャープで、洗練され、気安く触れるのを拒むような、そんな美しさを放っていた。


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