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噛んで
第三章

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第三章

 眞人はそこに入った。そして皆は後ろの木や皐の陰に隠れてそのうえで様子を見ている。やがて向こう側から。
「来たな」
「ああ、来たな」
「あいつだ」
「神楽だ」
 薄い茶髪でそれを左右でイカリングの様にしている女の子が来た。顔立ちは目が大きくはっきりとしている。口は小さく鼻の形は程よく整っている。背は一六〇程度であり胸は小さいが制服から見える脚は中々奇麗である。全体的にスタイルはいいと言える。その彼女が来たのだ。
「ああ、黒田ね」
「神楽、来てくれたんだ」
「ええ、来たわよ」
 まずはこうしたやり取りからであった。
「下駄箱のラブレターね」
「下駄箱って」
「おい」
 隠れて見ている男達はそれを聞いて思わず顔を顰めさせてしまった。
「また随分と古典的だな」
「そうだよな」
「ラブレター自体そうだしな」
「何時の恋愛漫画なんだよ」
 こんなことも言うのであった。
「ったくよお。何かよ」
「黒田も知らなさ過ぎだろ」
「奥手っていうのか?あれって」
「天然だろ」
 こんな辛口の評価であった。だが彼がかなり古い行動を取ったことは事実である。そしてそれは光からも言われたのであった。
「あのさ」
「何?」
「正直びっくりしたわよ」
 呆れた顔で彼に言ってきたのである。
「あんなものが下駄箱の中に入ってて」
「そうだったんだ」
「そうよ。それでだけれどね」
「うん」
「言いたいことあるのよね」
 こう言ってきたのだった。彼女からである。
「私に」
「そうだけれど」
「じゃあ言って」
 呆れているうえに素っ気無い言葉であった。
「何でもね。あんたの言いたいことをね」
「言っていいんだ」
「だからここに私を呼んだんでそ?」
 完全に光のペースで話が進んでいた。背は眞人の方が高い筈なのに彼女の方が大きく見える程である。それは後ろのギャラリーの評価だ。
「おいおい、完全にな」
「そうだよな」
「向こうのペースじゃねえか」
 眞人の側に立っての言葉である。
「こりゃ駄目かな」
「失敗するってことかよ」
「ああ、まずいんじゃないのか?」
 こう話されるのだった。物陰に隠れながらひそひそとである。
「あのままじゃよ。コクっても玉砕じゃねえのか?」
「確かにな。怪しいよな」
「それにだよ」
 さらに話されるのであった。
「コクれるのか?あいつ」
「それ以前にか」
「それができるかか」
「ああ、できるのかよ」
 そのことも話される。
「あんな状況でよ。できるか?」
「言われてみれば怪しいよな」
「顔真っ青じゃねえかよ」
 彼の顔を見ても話す。確かに蒼白になっていてしかも表情も強張っている。今にも倒れそうとはまさに今の彼の為にある言葉であった。

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