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横浜事変-the mixing black&white-
法城は恥ずかしがる様子もなく、長々と哲学を語った
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体を黒にまとめた男達が並んでいる。しかしミル達とは真反対で一人一人の統率さに欠けており、ほとんどの面子に緊張感が窺えない。すでに寝転んで上空に浮かぶ満天の星を眺めている者までいる始末だ。

 「もう一つは誘導した。これで準備完了だ」

 集団の中から出てきたグレーコートを羽織った学生と思しき少年がミルにそう告げた。見た目が平均以上の造形をしていて、態度が不釣り合いなぐらいに格式ばっている。彼のような人間も殺し屋なのか。そう感じた彼女だったが、淡々と「了解」という言葉を返すだけだった。

 彼らのやり取りが終わるのを見計らったかのように、眼下の一本道――やや左側に隠れている殺し屋達とは反対側――に一台のワゴン車が到着した。ちょうどミル達が乗って来た車の後ろに駐車し、中から人が出てくる。ここからでは暗くて正確に識別出来ないが、あれが裂綿隊を追ってここまでやって来たもう片方の殺し屋チームだろう。

 遠い薄闇の中に映る彼らの一人が携帯を取り出し、誰かの確認を取っている。それから少しして、ヘヴンヴォイスと最初の殺し屋達が進入していった小道に足を向けた。その先にいるのは仲間の殺し屋だが、果たしてこの夜陰でそれに気付けるかどうか――

 ミルを始め、その様子をじっと見つめるヘヴンヴォイスと裂綿隊のメンバー。誰もが計画進行に固唾を飲んで見守る中、ルースがポツリと言った。

 「この作戦を考えた『アイツ』は、今どんな気持ちなんだろうな?」

 「……さあな」

 その言葉に反応したのは、先程の学生だった。ミルの隣で一本道にいる者達の行末を見下ろしながら、彼は達観した声で呟いた。

 「でも一つだけ言えることがある。それは『アイツ』がここにいる奴らの中で一番楽しんでいるってことだ」

 「楽しむ?どうやって?」

 「どうやってって言われても……。けど『アイツ』はこの街一番のクソ野郎だからな」

 その人物のことを深く知っているような口ぶりで喋る少年に、いつしか誰もが耳を傾けていた。ひんやりとした風が彼らの背を吹きつけ、ルースはそれに合わせて煙草の吸殻を手から放した。それは曖昧に宙を舞って落ちていく。

 そんな大柄な男の所業にミルも少年も頬をひくつかせ、それから自身も言葉を風に乗せて吐き出した。

 「自分の携帯番号を拡散して、掛けてきた奴を流れ作業みたいな気楽さで殺す。そんな殺人鬼野郎の反乱に付き合ってんだぜ、俺らは」



 「せいぜい、殺し屋統括情報局の連中は最後までハッピーエンドのために足掻くんだな」

 最後の言葉は、一本道の端と端にいて徐々に距離が縮まりつつある鼠たちへの忠告でもあり、情を含ませたものだった。
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