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横浜事変-the mixing black&white-
法城は恥ずかしがる様子もなく、長々と哲学を語った
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き場に殺し屋達が息を潜めて待機している。ゴミが置いていないのはこちらが細工したからだ。彼らをここに収めるために、有象無象の塊たちは勝手に処分した。

 「こっちの準備は整った。あとは裂綿隊とかいう連中が敵をちゃんとこっちに運んでくれりゃ良いだけだな」

 ルースが口に煙草を加えながらそう言った。言葉は慎重性に富んだように聞こえるが、声は非常に張り詰めていない。結局のところ、この程度の争いごとは彼らにとって子供の喧嘩程度に過ぎないのだ。仮に自分達が誰かの思惑によって事件に巻き込まれたのだとしても、それに対処出来るだけの技術は持っている。ホテルの件では一人が怪我を負ったが、珍しい事ではない。
自分と『死』が密着するぐらいに向かい合せになったとき、彼らは初めて焦りを覚えるのだ。

 ――ルースの言う通り、あとはもう一方の敵を待つだけ。あと少しで社長が望んだ情報を知ることができる。

 ――……。

 計画は誰の手に邪魔される事なく進んでいる。『彼』との取引が成功すれば、ミル達はこの国から飛び立ち、再び仕事に戻れる。生温く中毒性のある日本の日常とは違う、殺伐として血の臭いに塗れたあの戦場に。

 しかし、と彼女は心中で訝しんだ。自分はまだ納得出来ていない。元の世界に戻る前に矯正しなくてはならない事がある。

 ――私はここまでの過程でどこか変われたのだろうか。いや、変わっていない。私はまだ、『私』になれていない。

 幾度となく浮かび上がる、本当の殺し屋像。もちろんそれは彼女が作り出した空想上のものであり、実際はルースのような呑気な殺し屋だっている。しかし彼女は諦めていなかった。

 ――ロシアに帰る前に、せめて今の自分だけは消し去りたい。この国に汚染された、汚い私を。

 それは恐らく、誰もが学生時代に一つは生んだだろう『黒歴史』を消してやりたいと思う衝動に似ているかもしれない。彼女にとって、横浜で何度も見た『笑顔を振り撒く自分』は黒歴史そのものだったのだ。

 他人からしてみれば、幼く可愛い話だと苦笑い出来るが、彼女にはショックが大きすぎた。

 一度見失い欠けた自分を取り戻さなくてはならない。そして今ある自分を壊す。敵を殺し、その度に無情という経験値を高めることで。

 ――全てをクリアしたとき、私は立派な『殺し屋』になれる。

 ――表情なんてなければいいのに……。

 彼女はすでに『金森クルミ』ではない。心の根っこにその残りかすが溜まっていたとしても、それは敵が溢す血の奔流に押し流されて削れていくだろう。そうして全てを終えたとき彼女は本当の自分を手に入れる。

 ――……表情なんて、なければいいのに。

 そのとき後ろからビルの非常階段を叩く複数の音が聞こえてきた。振り返ると、そこには全
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