第1章 群像のフーガ 2022/11
5話 鼠の戦い
[4/5]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
ナリオは当人が最もよく知っているだろう。まさかこれで新規プレイヤーとベータテスターの溝が埋まることを予想しているほど楽天的な性格でないことも知っているつもりだ。この攻略本があの騎士様の目に留まれば事態をある程度緩和してくれるだろうが、それでも、この行動の意図が見えない。
「別に何をするのも勝手だろうけどさ、もうちょっと自分を大事にしてもいいんじゃないか?」
「ありがとう、でもねリンちゃん。これがオイラの戦い方なんだヨ。何も知らない誰かさんたちが、オイラの情報で少しでも長く、少しでも多く生き延びてくれれば、それだけでイイ。そしてあの《攻略組》はこの世界に囚われたプレイヤー達の希望になろうとしていル。――――潰えさせちゃ、いけないんだヨ………」
思わず、息を呑んでしまった。
こいつは、単なる情報屋などではなかった。己が持つ情報という武器を巧みに操り、見事に戦っている。現にその情報に助けられてここまで辿り着けた新規プレイヤーは何人いるだろうか。偵察戦の手間を省いたことでどれだけの犠牲を予防できただろうか。その結果どのような仕打ちがあろうとも、恐らくアルゴは止まらないだろう。意図が見えなくて当然だ。彼女は誰かのために戦っている。身勝手な俺とは違うのだから。
いや、俺にもできることがあるとしたら………
「俺も、手助けくらいはできるか?」
「東の牧草地沿いの農家に、オイラが信頼しているソロプレイヤーがいル。既に今日の攻略会議でPTが構成されたみたいだけど、彼のところはまだ空いてるはずだヨ」
東の牧草地か。確かあそこには宿泊物件が一ヶ所しかなかったはずだ。牛乳飲み放題という変わり種のアメニティは魅力的だったが、部屋が一部屋しかなく風呂も鍵が掛からないというデメリットから、宿泊を断念した場所だ。幼馴染とはいえ、やはりあれでも女の子だから気を遣うのである。
「会議不参加の輩がいきなりPTに入れてくれと出向いて、失礼じゃないか?」
「底意地の悪い性格はしてないから、話せばすぐにPTに入れてくれると思ウ。恥ずかしい話だけど、リンちゃんとヒヨリちゃんの力もボス攻略に貸してくれると嬉しイ」
騎士様の代理でも依頼されてきたのかと思うくらいに、アルゴは真剣に頭を下げてくる。あのふてぶてしい鼠がこれほどまでモノを頼んでくるのも、恐らくこれが初めてだ。
ここで断ったりしたら、きっとヒヨリに絶交されるだろうな。かくいう俺も、こうして頼まれたのを断れる度胸も持ち合わせていないんだが。
「菓子折りでも持って行けばいいか」
「……ありがとウ………じゃ、もう一件用事を済ませなきゃいけないから失礼するヨ………ヒヨリちゃんにゴメンネって伝えておいてくれよナ」
言伝を残すと、鼠は足早に外へ
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ