第1章 群像のフーガ 2022/11
5話 鼠の戦い
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しばらくのアルゴとの遣り取りの裏にクライアントがいたのには意表を突かれると同時に、こんな情報を持っているクライアントとやらに興味が沸いた。
実は《セティスの祠》についての情報は第二層のNPCから初めて聞けるため、第一層においてそれを知るプレイヤーは、十中八九ベータテスターに限定されるのである。しかし、目的が《レイジハウル》か《フロウメイデン》か、或いはその両方だとしたら、既にこの情報は賞味期限を過ぎてしまっている。何せこの二振りのレア武器はそれ以外に存在し得ないユニーク品だからである。アルゴの口から聞いた通り《セティスの祠》の情報だけを教えたところで、本当の意味で要望に合っているとは到底考えにくいのだ。それになにより、そのクライアントは俺がβテスター時代に《セティスの祠》を攻略したことを知っている。
「で、お客さんはいくら出すって?」
「それがなかなか太っ腹なんだナーこれガ。《リンちゃんが同行してくれれば》っていう条件はあるけど、金に糸目は付けないそーダ」
マップデータの提供と言わないところを見ると、まだ情報を持っているだけでダンジョンには潜っていないと思っているのか。いや、それなら口頭での説明なり、紙に書いて手渡すなり、手段はあるはずだ。それをわざわざ俺に同行させる理由はあるのか?
「そのクライアントが誰なのか、教えてもらうことはできるか?」
「今ならオトクな十二万コルで、どうダ?」
「ヒヨリ起こしてくる」
「わ、わかったヨ!? 教えるから待ってクレ!」
ソファから立ち上がった俺にしがみつくように制止しようとするアルゴの努力もあり、茶菓子――細長いクッキーみたいな焼き菓子――を用意するだけに止める。というより、この嫌がり様はなんなのだろうか。本当はヒヨリが苦手なんじゃないだろうかと考えてしまうが、次のアルゴの言葉でそれは杞憂となる。
「キバオウってヤツ、覚えてるダロ?」
「あいつが?」
ヒヨリにその名前を聞かれないようにしたのはアルゴなりの気遣いだろう。だが、同時にいくつかの疑問が浮上する。
キバオウといえば《ベータテスターに対して並々ならぬ憎悪を燃やしていた新規プレイヤー》だと認識していたが、そんな男がなぜ現時点において《セティスの祠》の情報を持っているのだろうか。あれを知るには第二層の場末の村まで出向かなければならないし、情報源となりうる《祠について噂程度に聞いていたベータテスター達》も《アニールブレード》を優先して足早にはじまりの街を後にしたことだろう。彼の《ベータテスターが抜け出したあとのはじまりの街の惨状》を知るような口振りがそれを物語っているし、そんなこともあって、噂程度の情報も漏れることはなかっただろうと予想できる。つまり、順当に考えてキバオウが新規プレイヤー
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