マフラー
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風が吹いた。
「きゃあっ!」
秋穂は左手でスカートを押さえ、右手で帽子を押さえようとする。だが間に合わなかった。
帽子は風に吹かれ飛んでいこうとする。だがその時健児が手を伸ばした。
「あっ・・・」
秋穂が見た時には健児は帽子を掴んでいた。見事なキャッチであった。
「はい、秋穂さん」
手に取った帽子を秋穂に手渡す。
「あ、有り難う」
差し出されたそれを両手で受け取ろうとする。その時手と手が少し触れ合った。
「・・・・・・・・・」
無言で顔が真っ赤になった。さっと帽子を受け取るとそそくさと被った。
「どうしたの?秋穂さん」
そんな秋穂の様子に健児はいぶかしんだ。
「な、何でもないわ」
そっぽを向きながら秋穂は言った。勤めて平静を装っているが内心かなり狼狽しているのは明らかだった。ただまだ中学生の健児にはそれが解からなかっただけである。
すぐに二人は家へ着いた。晴美にただいまを告げると秋穂は自分の部屋へ入った。
「ふう」
カバンを置きコートと帽子をかけると秋穂はクッションの上に座り込んだ。
「なんかわたし変だな」
ポツリと洩らした。
「朝のせいかな。けどそんなの関係無い筈だし」
側に落ちていた別のクッションを手に取った。そしてそれを抱き締めた。
「やだなあ、手を触れただけで赤くなるなんて昔の少女漫画だよ」
抱き締めながら独り言を言う。
「気のせいよね、気のせい。たまにはこんな事もあるわ」
自分で自分に言い聞かせる。
「大体健児君は甥じゃない。私は叔母さん」
それで昔クラスメイトにからかわれていた事を思い出す。
「叔母さんが子供を好きになる筈ないしね」
頭ではそう解かっていた。だが心はそうはいかない。一時も止まらないメトロノームの様なものだった。秋穂の心は自分でも気付かないうちに揺れ動き止まる事が出来なくなっていた。
数日は何も無かった。秋穂も朝のことや帽子のことを忘れ勉強やサークル、友達と遊ぶ事に熱中していた。
健児もそうであった。中学生は大学生より忙しいものだ。部活に塾通いと秋穂とあまり顔を合わせることは無かった。
秋は深まるのが早い。深まれば深まる程人の心を寂しいものにしていく。ある人は言った。人は秋に恋をするのだと。それは何故だろうか。寂しくなり人は自分を支えてくれる誰かを探すのであろうか。そして人は恋をする。寂しさを満たし乾いた心を潤す為に。
冬になる。冬は寒く冷たい。人は自分の心も冷たくなってしまわないかと不安になる。その時に人は恋をしている事の素晴らしさを知るのではないだろうか。
恋は人の心を暖かくする。例え雪が世を覆うとも心までは覆えない。世界
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