マフラー
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はなかった。嫌いとまではいかないが好きにはなれなかった。冬よりも秋が好きなのだ。秋の小路に舞い落ちる紅や橙の葉が好きなのだ。
子供の頃父親にせがんで毎年秋になると紅葉狩りに連れて行ってもらった。紅葉の山の中を歩き紅葉の葉を拾って自分の髪や服に飾ったりアルバムに入れたりするのが好きだった。今でもパッチワークに秋の葉をよくモチーフにする。
秋の花も好きだ。彼岸花やモミジアオイ、そして秋桜。花畑に咲く花も好きだが野山や草原にひっそりと咲く花も秋穂は好きだった。
どうしてそれ程秋が好きなのか解からなかった。自分の名前のせいだろうかとも考えたが結論は出なかった。とにかく秋の話ばかりするので親に他の季節のそれぞれの良さを教えられたこともある。
春の桜が好きになった。そして菖蒲や菫も。夏はもう滅多に見られないが蛍や海が好きになった。青く何処までも続いているかの様な海が何時見ても美しかった。
だが冬は花が少ない。蛍もいないし海は荒れている。あるとすれば雪だけである。
別に寒いのは嫌いではない。だがこの殺風景が好きではないのだ。何も無くただ冷たい風が吹くだけである。
「身体隠せる服を着られるのはいいんだけれど」
シックで長く体型を隠せる服が好きな秋穂にとって冬の服は自分の為にあるようなものだった。だがそれとこれとは話は別だ。
「冷たいしな。髪が濡れるし」
長い髪に雪が触れるのは嫌だった。長い髪なので拭く手間が大変なのだ。
結晶も別に綺麗とは思わなかった。刺繍にも使わない。
「寒いし・・・早く帰ろうか」
「秋穂さん、今帰るとこ?」
後ろから声がした。知っている声である。
「健児君」
そこにいたのは健児だった。学生服の上にグレーのコートを着ている。
「うん。健児君も?」
「そうなんだよ、部活が遅くなってね」
「ふうん、頑張ってるんだ」
「えっ、別に頑張ってなんかいないよ」
健児は顔を少し赤らめた。
「うちの部はやってて楽しいしね。いい奴ばかりだし」
「へえ、いいじゃない。やっぱり部活は楽しくなくちゃね」
秋穂はにこりと笑って言った。
「そうそう、楽しくやって勝つ。それが最高だってうちの先生も言ってた」
「そうよねえ、ほんとに。ところで健児君ってレギュラーなんだって?」
秋穂はふいに尋ねてきた。
「えっ、ま、まあ一応そうだけど」
「やるじゃない、健児君の学校って確かスポーツ強いのよね」
「まあ強い方かな。うちも全国大会出た事あるし」
照れくさそうに言った。
「健児君って背も高いしね。このままいったらいい選手になれるよ」
「そ、そうかなあ」
「なれるよ、安心して」
その時不意に
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