外伝:ブルハ、ブルハ以外を歌う
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ゃないが戻れない道に踏み込んでた」
「…………」
「でも、俺はミュージシャンとしての道を進むさ。正しいのか間違ってるかなんてわかんないけど、前には進んでるからな」
「………そういえば、俺も少しは前に進んでるんだったな」
思い出した。俺も前へ進んでいるんだ。
ALOで新しいファンが生まれて、現実世界だってちょっとは増えた。
目の前の俺よりずっと緩慢な踏み出しでしかないかもしれないけど、たどり着くかもわかりないけど。
「なんかありがとな。歩き続ける理由を再確認出来た気がするわ」
「俺も……話を聞けてちょっと落ち着いた。思い出は今も積み重なり続けてる。まだ前へ進める。ありがとう」
そう言葉を交わして、俺たちはその場をすれ違って前へと進んでいった。
振り返ると、すれ違った方の俺の先にはドラムやベースを構えて待ってる何人かの男女がいた。その後ろには顔も見たこともないたくさんの人々が、立派なギターを抱えたあっちの俺を歓迎するように手を振っていた。
羨ましいな、と少しだけ嫉妬していた俺は、不意に手を引っ張られる。
見れば、ユウキがいつもの笑顔で俺を引っ張って反対方向に連れて行こうとしている。小柄な体躯に似合わぬパワフルな行動に苦笑いする。ユウキの奥には剣を、槍を、斧を掲げた冒険者たちが笑顔で待っている。
ユウキ――そういえば、俺に自分の歌う意味を考えさせた切っ掛けはユウキだった。
今だってこうして俺を振り回していて、でもそんな彼女の子供っぽいところに触発されてかオンラインにもちょっとずつ肯定的になった。彼女との出会いも、気が付けば大きな転換だった。
俺はもう一度振り返って、遠ざかる俺の背中に声をかける。
「なあ!お前はユウキに出会ったのか?」
「……彼女と初めて会ったのは、アスナに頼まれて歌った彼女の墓前だった」
「――えっ?」
一瞬その言葉に耳を疑って立ち止まった俺に、向こう側の俺は苦笑しながら忠告するように言った。
「大事にしてやれよ、その子。『お前』が助けた子なんだからな」
「――よう。様子を見に来たぜ」
「あ、お兄ちゃん!おーそーいー!」
「悪い悪い、信号にことごとく引っかかっちゃってな」
最近はよく足を運ぶようになった病院の一室で、今日も彼女は元気に出迎える。
その笑顔につられて笑いつつ、ギターケースを近くの壁に立てかけて彼女の病室の隣に座る。
もう体力はそれなりに回復したのか、今や病院の敷地内を歩き回ることも出来る。快活な彼女から溢れるように感じる生命力は、一緒にいるだけで俺も恩恵にあやかれそうなほどだ。
「ところで木棉季(ゆうき)。お前、なんでALOではお兄さんって呼ぶのに現実では『お兄ちゃん』なんだ?」
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