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横浜事変-the mixing black&white-
横浜の街は殺し屋に対しても受け身のままだ
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一人であるルースが顎を大きな手で掻きながら笑っていた。彼はミルの隣に立ち、同じようにステージの方に目を向ける。

 「俺らがこの国で楽しむ最後ぐらい、のんびり構えたらどうだ?今回の作戦が終われば、俺達はロシアに帰るんだからよ」

 「ルースみたいに呑気には構えていられない」

 「ハハッ、それ言われちまったら終わりだ」

 ミルの冷淡な言葉を受けてなお、ルースは乾いた笑いを口から零した。余裕があるのか、それとも本当にマイペースなのか、彼は腕を組みながら言葉を紡ぎ出す。

 「ま、俺からしちゃとっとと国帰ってボルシチ食いてえんだけどな」

 ミルが何も言わないでいると、ルースは「シカトかよ」と苦笑し、回れ右をした。ミルに背を向けた形で、最後に一言呟いた。

 「そんなに気負いすんなって。『アイツ』は自分の敵には容赦ない奴だ。俺らは多少の怪我なら慣れてる。死ぬ以外に慌てることなんかないのさ」

 ルースがその場を去った後も、彼女はそこに残り続けた。予定ではもうそろそろラジオ番組が始まり、ミル達は設置された特設ステージに立つ。観客の前で自分達の作り出す音楽を奏で、横浜の街を震撼させる。それこそが、表側でやれる最後の仕事だ。

 だが、彼女は静かにステージから背を向け、ルースが歩いて行った方へと足を動かした。先刻の彼が発した言葉を思いだし、心中で突っ込みを入れる。

 ――『私達がこの街で歌うこと』なんてもうないのに。

 ミルは顔を僅かに俯け、すぐに前へ向き直った。そのときの彼女の目は、すでに世界一の面積を誇る国でのものへと変わっていた。

 「この街はやはり温い。(じか)に感じただけあって説得力がある」

 ちょうどすれ違ったスタッフの一人がミルの言葉を聞いて不思議そうな顔をした。しかし彼女はそれに気を留めずに、舞台から遠ざかる道を歩き続ける。

*****

同時刻 

 大河内らチームCは横浜マリンタワーに隣接するホテルの屋上で狙撃態勢に入っていた。マリンタワー前に作られたステージを真横から望むこの場所は、本来の作戦では使わない場所だったのだが、急遽変更になった。ライブに来た観客が多すぎて、山下公園からの狙撃は出来ないと大河内が判断したのだ。

 ホテルにはピッキングが出来る仲間のおかげで侵入出来た。月光に浮かぶ空は雲で覆われ、あまり良い傾向ではなさそうだ。中に着込んでいる防弾チョッキのおかげで身体は問題ないが、顔や手に吹き付ける冷たい風は意識を無駄にはっきりとさせ、それが余計に緊張の元になっている。

 「あ、白髪の女がステージ袖からも消えた」

 法城が銃のスコープから見えた状況をボソッと伝える。大河内は腕時計を見て「いや、もう時間だ」と言った。そして彼の言葉に合わせたように
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