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キルケーの恋
キルケーの恋
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ないよ」
 グラウコスはそう言って語気をさらに荒くした。
「君のせいで彼女はああなったんだ。それについて説明してもらいたいんだけれど」
「それは」
 だがキルケーはどうしてもそれを言うことができないでいた。グラウコスの怒りはさらに強まる。
「わかった。言えないのならいいよ」
 彼はそう言った。
「それならもういい。この宮殿も君も」
 そして三叉を振り上げる。そのまま宮殿を津波に入れようとしたその時であった。不意に二人の間に背中に翼を生やした一人の少年が姿を現わした。
「待って、グラウコス」
「君は」
 癖のある巻き毛の金髪に幼い顔付きをしている。愛の神エオスであった。アフロディーテの息子であり神や人間の心を射抜きその愛の炎を燃やさせる神である。その愛の炎を燃やさせる弓と矢は手に持っている。
「エオスじゃないか。どうしてここに」
「今の君を見て言いたいことがあってここに来たんだ」
 彼はそう言ってグラウコスの前に出て来た。
「まずはその三叉を下ろして。いいね」
「あ、ああ」
 彼はそれに従い三叉を下ろした。そしてエオスに顔を向けた。
「まず君の胸に矢を放ったのは僕なんだ」
「君が」
「そうさ。だから君はスキュラに恋をしたんだ」
「そうだったのか」
「最初はね、君に矢を放つのはもっと後にするつもりだったんだ。君はまだ神様になって日が浅かったし忙しいみたいだったから。けれど見るに見かねてね」
「僕をかい?」
「それが違うんだ」
 彼はここでこう言った。
「僕が気の毒に思ったのは」
 キルケーに目をやった。
「彼女なんだ」
「キルケーを」
「そうさ。君は全然気付いていなかったようだけれど」
「エオス」
 だがキルケーは彼を止めようとした。しかし彼はそれでも言った。
「いや、言わせてもらうよ。君の為だから」
「エオス、何かあるんだね」
「そうさ。実は僕はね、彼女を幸せにしたかったんだ」
「キルケーを」
「うん。彼女には好きな人がいたんだ」
「あの、エオス」
「いいから。君は何も言わなくていいよ」
「そういうわけにはいかないわ」
「いいんだよ。君が言うべきことじゃない。いいかい、グラウコス」
 そしてまたグラウコスに顔を戻した。
「彼女はね、君のことが好きなんだ」
「えっ!?」
 それを聞いて驚きの声をあげた。
「嘘だろう!?」
「嘘じゃない、本当のことなんだ」
 エオスは驚くグラウコスに対してそう言った。
「君が神様になった時に彼女が世話係になっただろう。その時だったんだ」
「そんな、そうなら」
「言えないことだってあるのさ。恋ってのはそういうものだ」
 エオスは
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