キルケーの恋
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・・・ね。すぐに行った方がいいわよ」
「うん」
グラウコスは頷いた。
「じゃあ行って来るよ。ねえキルケー」
「何?」
「こんなこと言うなんて夢でも見てるのかとか馬鹿だとか言われそうだけれど」
彼はその青い顔を真っ赤にしてモジモジしながらキルケーに対して言った。
「式には出てよね。僕達の恋の橋渡しとしてね」
「いえ、それはできないわ」
キルケーは首を横に振った。
「どうして?」
「それは」
グラウコスの問いに答えようとする。だがとても言うことはできなかった。
「私のことは秘密にしていて欲しいの。いいかしら」
「そういうことなら」
グラウコスもそれには納得した。首を傾げてはいたが。
「けれど祝福はしてね。お願いだから」
「ええ」
「それじゃあ。今から行って来るから。本当に恩に着るよ」
こうして彼はスキュラのいる岸辺へと向かった。キルケーはそれを一人見送っていた。立ち去るグラウコスはおおはしゃぎで飛び跳ねるようにして宮殿を後にしていく。
「私のことは何も疑っていないのね」
キルケーはそれを一人見送っていた。胸を激しく締め付けるものがあった。
「もうすぐ貴方は・・・・・・」
それ以上は言うことができなかった。考えることもできなかった。そこまでは流石にできなかった。
いたたまれなくなって、いや自身の良心の咎めに逆らえず彼女は宮殿の奥に消えた。そしてそこから出て来なかった。
グラウコスは上機嫌のままスキュラのいる岸辺に向かった。そしてキルケーからもらった惚れ薬の瓶の蓋を開けた。そしてそれを岸辺にたらした。
「これでよし」
彼は薬が全て岸辺に流し込まれたのを確認して笑った。
「これで彼女は僕のものなんだ」
そして岩の陰に隠れた。スキュラが来るのを待った。やがてスキュラが丘の方からやって来た。
「来たぞ」
わくわくしながら彼女を見る。見ればスキュラはグラウコスにも薬にも何も気付いてはいなかった。服を脱ぎ裸になった。
美しい裸身であった。まだ少女の幼さを残してはいるが成長が見られていた。大きくなりはじめている胸は上を向き脚はスラリと伸びていた。やはり神の血を引くだけはあった。
「もうすぐ彼女が僕のものになるんだ」
グラウコスはスキュラの美しい身体を見てそう思った。
「そしてこれから僕と彼女は」
そう思うだけで幸せであった。そして彼女が岸に入るのを見守った。
「そう、入れ」
興奮しながらそれを見守る。
「入るんだ、そうすれば君は」
僕のものになる、そう考えていた。そう、この時までは。
「え!?」
海に入ったスキュラは異変に気付いた。海の中に何かがいるのだ。
「何かしら。
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