キルケーの恋
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「ねえ」
キルケーは部屋に入れるとグラウコスに声をかけてきた。
「少し休んだらどうかしら。随分疲れているみたいだけれど」
「いや、大丈夫さ」
彼は明るい声でそれに答えた。
「そう」
それを聞いてやはり哀しい顔になった。
(私のことは本当に気付かないのね)
「キルケー」
ここでグラウコスが声をかけてきた。キルケーはそれを聞いてハッとした。
「な、何かしら」
「その薬のことだけれど」
「え、ええ」
それで我に返った。そして棚から一つの水晶の瓶を取り出した。
「これよ」
「これなんだね」
「ええ」
キルケーは笑みを作ってそれに応えた。
「これを使えばね。貴方は」
「僕は」
ここで良心が咎めた。グラウコスには悪意はないのだ。あくまで彼女を友人として頼んでいるだけなのだ。
自分の感情は一人よがりなものに過ぎないのはわかっている。だがそれを抑えることもできなかった。キルケーの顔も手も蒼白となり震えていた。グラウコスにもそれは見られていた。
「ねえ」
「何!?」
キルケーはそれにまたハッとする。だが震えは止まらない。
「何処か悪いのかい?何か顔色も悪いし」
「そ、そうかしら」
咄嗟に誤魔化そうとするがそれは通じなかった。グラウコスはキルケーを気遣う目をしていた。
「何かおかしいよ。やっぱり薬を作って疲れたのかい?」
「ちょ、ちょっとね」
慌ててまた誤魔化す。
「昨日寝ていないから。けれど大丈夫よ」
そう言ってグラウコスの不安を取り除いた。
「今日は早く寝るから。ね」
「そう」
彼はそれを聞いて何とか納得したようであった。キルケーは内心胸を撫で下ろした。
「だったらいいけれど」
「うん。だから心配しなくていいから」
「じゃああらためて受け取らせてもらうね」
そう言ってその水晶の瓶を受け取った。キルケーはその時彼から目を逸らしていた。しかしグラウコスはそれにはやはり気がつかなかった。
「それでこれはどうやって使うんだい」
「それはね」
キルケーは薬の使い方を彼に教えた。
「彼女がいつも水浴びしている岸辺に入れるのよ。そうすれば」
「彼女は僕に夢中になるんだね」
「ええ」
キルケーは目を伏せて頷いた。
「だから・・・・・・楽しみにしていてね、その時を」
「わかったよ、キルケー」
彼は笑顔で答えた。
「いつもこんなことばかり言って御免ね。頼りにして」
「それはいいのよ」
彼女は小さい声でそう言った。
「友達だから。そうでしょ?」
「有難う」
「いいのよ、お礼なんて」
良心の叫びと戦いながらそれに答える。
「だから・・・
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