キルケーの恋
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「そうさ、ポセイドンの息子なんだ。こう見えてもれっきとした神様なんだよ」
「神様なんですか」
「うん。それで君は?名前は何ていうんだい?」
「私のですか?」
「勿論。よかったら教えて」
「はい」
少女はそれを受けておずおずと話しはじめた。
「私はスキュラといいます」
「スキュラ」
「はい。ポルキュスとクラタイイスの娘です」
「ポルキュスとクラタイイスの」
二人共神の一員であった。それを聞いたグラウコスは的を射たように喜んだ。
「じゃ丁度いい。神様同士だ」
「は、はい」
いきなりそう言われスキュラは戸惑った。
「ねえスキュラ」
グラウコスは海から身を乗り出しスキュラに話しかけてきた。
「よかったら付き合わないかい?」
「貴方とですか?」
「そうさ。僕は神様だし君もそうだ。丁度いいじゃないか」
「けれど私は」
彼女はいきなり告白されて戸惑っていた。それを受け入れるにはあまりにも幼かったのだろうか。
「何かあるのかい?」
「いえ、ないですけれど」
「それじゃあいいじゃないか。さあ」
彼は手を差し出した。
「僕と付き合おうよ」
「けど」
スキュラはまだ少女であった。恋とはどうしたものか知らないのだ。
「私、何も知りませんから」
「知らないなら僕が教えてあげるよ」
彼は年長者の余裕もあってかそれに構わず誘った。
「さあ、おいで。一緒に海を泳ごうよ」
「けど」
「迷うことはないよ。おいでよ」
スキュラはグラウコスの差し出した手を握ろうとした。グラウコスはそれを見てにこりと笑った。しかしそれはほんの一瞬の
ことであった。
「御免なさい」
スキュラはそう言った。そしてそのまま岸辺の向こうに姿を消したのだ。
「ああ・・・・・・」
グラウコスはそれを見てひどく落胆した。翌日岸辺に行っても彼女はいなかった。次の日もまた次の日も。彼は塞ぎ込み次第に食べ物が喉を通らなくなっていった。だがそれでも恋の炎は燃え盛るばかりであった。
悩みかねた彼はアイアイアという島に向かった。ここにはキルケーという女神がいるのだ。彼女は海の神の一人でグラウコスとは同僚であり友人であった。太陽神ヘリオスと海の神オケアノスの娘である。ティターン神族の血を引く由緒正しい血筋の女神であった。青く長い髪と透き通る様な白い肌を持つ彼女はとても美しく気品があった。彼女の真珠で作られた宮殿からは常に美しい歌声が聴こえていた。しかし彼女は魔女でもあり多くの者を動物に変えてきた。そして薬師でもありそれにより多くの者の命を救ってきた。邪な性質と心優しい性質の二つを併せ持つ複雑な女であったのだ。
グラウコスも彼女のそんな性質はよく知っ
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