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キルケーの恋
キルケーの恋
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「うん」
 グラウコスは横に来たエオスに対して頷いた。
「これでいいんだ、僕は本来彼女を好きになる筈じゃなかったからね」
 笑ってそう言う。
「それよりもさ」
 エオスに顔を向けた。
「何だい」
「キルケーのところに帰らないか」
「グラウコス、やっぱり君は」
「いいから」
 そんな彼を急かした。そしてキルケーの宮殿に戻った。
「さて」
 グラウコスはキルケーを前にした。そして言った。
「キルケー、僕が戻って来た理由がわかるかい」
「ええ」
 キルケーはそれに答えた。
「わかってるわ、だから」
「だから」
「一思いにして。覚悟はできているから」
「わかったよ」
 グラウコスは頷いた。そしてエオスに顔を向けた。
「僕を射るんだ」
「え!?」
 それを聞いてエオスもキルケーも思わず声をあげた。
「それはどういうことだい!?」
「いいから」
 グラウコスは強い声でエオスに対して言った。
「射るんだ。いいね」
「しかし僕の弓は」
「わかってるさ」
 彼は言った。
「いや、いい」
 だがすぐにそれを断った。そしてキルケーに顔を戻した。
「キルケー」
「は、はい」
 キルケーは強い言葉で呼ばれて一瞬ビクッとした。
「これが僕の今の君に対する気持ちだ」
 そう言うと前に出た。そして。
 何と彼女を抱き締めた。両手で強く抱き締めたのだ。
「えっ・・・・・・」
 抱き締められたキルケーは思わず呆然となった。抱き締められたまま呆気にとられた顔をした。
「グラウコス、これは・・・・・・」
「一体どういうことなの」
「キルケー」
 彼はまた彼女の名を呼んだ。
「確かに君はスキュラに酷いことをしたよ。けれど彼女は元に戻った」
 彼はキルケーを抱き締めたまま言った。
「その罪は許せないよ。けれどね」
 言葉を続ける。
「君がどれだけ僕を想っていたのかわかったよ。そして僕は」
「僕は・・・・・・?」
「その気持ちに応えたい。今まで僕達は友達だったね」
「ええ」
「けれどこれからは違う。これからは」
「これからは・・・・・・どうなるの?」
「わかっている筈だよ」
 グラウコスはにこりと笑って言った。
「僕達は恋人同士だ。君が思っていたように」
「本当なの!?」
「ああ、そうさ」
 不安気なキルケーの気持ちを和らげるような声であった。
「それでいいだろう。僕も今まで君に気付かなかった」
 彼はまた言った。
「けれどこれからは違う。これからはずっと一緒だ」
「本当なの!?その言葉」
「僕は嘘はつかないよ、絶対に」
「そうだったわね」
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