SS:狼、白、そして氷槌
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クィンクェとはこの世界に置いて水の流動属性を表す理。
巨人が身に宿す『T』――炎の理の正反対に位置する属性数。
あれは、間違いなくその神秘術によって形成されたものだ。
大気中に溢れる神秘に属性を付与し、大気中の水分と掛け合わせて莫大な質量の氷塊を虚空に形成していたのだ。巨人と会話しながら、平然と、小さな町なら下敷きに出来るほどのものを。
これを、目の前のちっぽけな女がたった一人で形成した――?
あれを維持するのにどれほど膨大な神秘をコントロールする必要があるというのか。
神秘を内部に循環させる巨人と違い、あれは放出した神秘によって形成された大質量だ。
最早、ただのヒトの女が形成できる神秘の量を大幅に越え――魔将と同位にまで達しているとしか考えられない。例え目の前の女がクィンクェの属性数を得意としているとしても、巨人の身体にも並ぶほどの大規模神秘術など、あり得なかった。
「返答もせぬとは度し難し。跪け、愚昧が」
女のガラス細工のように繊細な指先がすっと氷塊を指し、そのまま振り下ろすように巨人に向ける。
瞬間、大気を押しのけてごうごうと風切り音を立てる氷塊が、その膨大な質量を持って巨人の頭に直撃した。みしみし、と巨木が軋むような音が響き渡る。
『……ゴ…ア、ァ……ッ!?』
重力加速と純粋な重量の重ねがけが齎した運動エネルギーに、巨人の口から苦悶の声が漏れる。
巨人の身体さえも震える程の衝撃と重量が巨人の頭部の表皮をかち割り、中から血液のようにマグマ染みた炎が噴出した。
同時に首、腰、膝と全身の負担がかかった場所に次々亀裂が入り、同じように紅蓮の炎が噴出。巨人の身体はゆっくりと、だが確実に氷塊の一撃によって傾いた。
が。
「暑苦しい輩め……まだ倒れず抵抗するか?」
『ア……ハ、ハ……融、ケロ!燃エロ……!!』
噴出した炎が、氷塊を融かしていく。
骨どころか魂までもを融解させそうな灼熱が、氷塊だけでなく周囲の森や山そのものを焼くほどにそれは熱く猛り、女性もその熱に顔をしかめた。
巨人はぐらつく体を踏み止めながら、ゆっくりと顔を氷塊から押し上げ、両手で氷塊を抱きかかえた。耳を劈くほどの蒸発音を立てて、小山ほどもあろうかという氷塊が音を立てて縮む。
『俺ハ、魔将…!…魔将……スルト、ル……雪遊ビ、デ、ハ……我ガ、勇猛ナル…焔、ヲ、止メラレヌ……ゥゥ!!』
口から火山の火口のような灼熱を吐きだした巨人は、その氷の塊を砕いた。
神の鉄槌にすら見えた大質量さえも焼く、地獄の業火の化身。
鬼か、悪魔か、将又それは最早神と恐れるべきなのか。
ヒト一人が覆せる力を凌駕した最強にして最悪の魔物。
それを打倒し
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