第五章
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た。そして酔った時の普段とは違う顔も。頭から離れるというのが無理であった。
「何か意外っつうか何つうか」
とりあえず言葉が見当たらなかった。その場にいて見つかるのも何だと思い立ち去ることにした。しかし。やはりどうにも先生を見る目が変わるのは止めようがなかった。
「それでここは」
授業中でも。今日は青いミニのスーツに素足だった。脚線美が見事に映えている。
「こうしてね。ちょっと」
あまり真面目に授業を聞いているとは思えない康則に声をかけてきた。
「馬場君、聞いてるの」
「あっ、はい」
実際に真面目には聞いてはいなかった。この前の酔い潰れた様子とはまるで別人だったのであれこれと考えていたのである。
「聞いてたらわかるわよね」
「わかるって」
「この時の主人公の気持ちよ」
「下人でしたっけ」
「それは羅生門でしょ」
先生は呆れた顔でそう康則に言った。
「今やってるのは芥川じゃなく太宰でしょ」
「ええと、じゃあメロスは」
「ふざけてるの!?」
だがそれでもなかった。
「今やってるのは富岳百景でしょ」
「あっ、そうか」
言われて教科書を開いてやっと思い出した。
「ええと、太宰は」
「はい、太宰は」
しかしこれまでだともっと怒られるというのに先生はあまり怒らなかった。ページをある程度読むだけで許してもらった。寛容と言えば寛容であった。少なくとも最近までの先生とは様子が異なっていた。
(やっぱり気にしているのかな)
そんな先生をみながら思った。
(結婚のこととか)
だがおれは口には出せなかった。どうも誰かに噂で言うのも憚られた。言えば先生が可哀想に思えたからだ。それに酔った時妙に可愛くも見えていた。やはり今まで見たことのない一面を見たのは事実でありそれが気に留まっていたのである。そしてそれはずっと続いていた。
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