第八楽章 エージェントの心構え
8-1小節
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骸殻に変身した。
「来るな、エリーゼ……隠れていろと言っただろう」
「だって、だってリインが! ――やめて、やめて! リインは酷い王様なんかじゃないです。ただ友達がいなくなって、ちょっと不安なだけ。本当はわたしみたいな子を助け出してくれた、優しい人なんです。だからお願い、殺さないで!」
《エリーゼ》は《リイン》に必死の面持ちで、《リイン》を背中に庇って訴える。
「いいですよ」
ジゼルは呆気なく言って《エリーゼ》の顎に指をかける。
「貴女が代わりに死んでくださるなら、彼は助けてさしあげます」
本気で背筋が冷えた。
間違ってはいない。時歪の因子である《エリーゼ》さえ破壊できれば、あえて《リイン》を殺す必要はない。だがどうしてもルドガーの中で抵抗感が頭をもたげた。
「これは俺が友から託された娘だ……どこの誰とも知らん人間に殺される謂れはない!!」
《リイン》が剣を構えた。増霊極での変身を使わないということは、彼は《ロンダウの虚塵》を持っていないことになる。
ジゼルはキャンドルスティックで《エリーゼ》を叩き飛ばした。飛ばされた《エリーゼ》がバウンドして転がる。《リイン》の注意は《エリーゼ》だけに向かう。
「最終勧告です。あの娘を渡しなさい。渡さなければ貴方も彼女諸共、抹殺します」
「そんな言葉を聞かされて、よけいに渡せるか!」
「そうですか。残念です」
嫌な予感がした。ルドガーはとっさに、傍らにいたエルの顔を腹に押しつけるようにして、エルの視界を閉ざした。
続き刃でジゼルは《リイン》の腕を切り落とした。さらに、抵抗の術を失くした《リイン》を、骸殻を解いてナイフを一閃、首を、刎ねた。
ごろっ、ごろろろ、と絨毯を転がる生首。
「いやああああああああああっ!! リインッ、リインッ!!」
「ル、ルドガー…何でエリーゼ、あんなに怖がってるの? 何があったの?」
言えるわけがない。容赦がない、という次元ではない。どれもこれも、ただ彼らを嬲るための余事。
「誠実な任務」を最優先するジゼルが、なぜこんな残虐行為に手を染めるのか。ルドガーには皆目見当がつかなかった。
「ルドガー。よく見ていなさい。これからわたくしがすることを。これがわたくしに教授できる、エージェントの最も大切な心構えです」
ジゼルは再び臙脂の殻と蓮の鎧を纏い、常磐緑へ染まった髪を揺らめかせて《エリーゼ》にキャンドルスティックを向ける。
《エリーゼ》は目にいっぱい涙を溜めて、走って逃げ出した。
――それは、おぞましい捕物の始まりだった。
《エリーゼ》はティポを持っていない。攻撃の術を持たない彼女はジゼルから逃げるしかない。誰もいない王城の中を、誰に
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