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あかつきの少女たち Marionetta in Aurora.
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蔵馬に教わった戦闘の構えを取った。
それを見て、ヤクザ達は各々が小馬鹿にしたように笑う。年端もいかない子供――それも虫も殺したことが無さそうな華奢な少女が、暴力を仕事とする暴力団組員に戦いを挑もうと言うのだ。常識で考えれば無謀を通り越して冗談か何かにしか思えない。
一方でモモは、彼らを如何にして“殺さないように”制圧するかを考えていた。
戦う術は色々と学んできたが、それはどれも殺すための技術である。殺さない戦い方は、今日習い始めたばかりだ。
ともかく急所は狙わず、威力の小さいジャブを打ち続けるしかない。
戦法を定めたモモに、軽薄男が厭なニヤけ顔で近付いてきた。警戒も何もない、油断しきった動きだ。
「ほら、どけ」
男はモモを押しのけようと手を前に出す。
その手と交差するように、モモはジャブを男の右肩に打ち込んだ。
千回も繰り返せば、一応形にはなる。
「――あっ」
蔵馬ほどではないが、鋭さを帯びたジャブ。それを食らい、男は独楽のように回転しながら吹っ飛んだ。
土埃を上げて地に伏す軽薄男を見て、残りのヤクザ達の表情が変わった。舐めきった弛緩から、警戒の緊に。
各々が顔を見合わせ、そしてうち一人が進み出てきた。その拳は既に固く握られており、穏便策を行使する気が無いことは明らかだ。モモを殴り飛ばして黙らせるつもりだろう。
体躯の大きなヤクザの方がリーチは長い。モモを拳の射程に捉えたヤクザは腕を振り上げた。顔面を狙った一撃だ。
対してモモは場所を動かず、躱す動作も見せない。
迫るヤクザの拳を目掛けてジャブを打つ。今度は余計な力加減はしない。全力の一撃だ。結果、ヤクザの拳はグシャリと潰れた。皮膚を突き破る骨に苦声を上げるヤクザを、モモは力任せに両掌で突き飛ばし、軽薄男と同様に砂利の上に敷いた。
二人も伸されれば、ヤクザ達もモモがただの子供ではないことが分かったらしい。
二人が抜けて空いた扇状の穴を塞ぎに動くが、包囲を縮めはしない。
明らかに人間離れしたモモのバカ力に攻めあぐねている様だった。
――ジャブだけでも何とかなる物なんだなぁ……。
モモは蔵馬が言っていた意味を理解した。
ジャブは攻撃の始点であり、ジャブ一発で終わらせるのが理想。
常人には難しい事だろうが、義体ならばジャブ一発が致命の威力を持つ。
蔵馬の言った意味とは少し違うが、これも立派な義体の戦術だった。
その破壊力を目の当たりにしたヤクザたちは、威力過多なジャブの餌食になるのを恐れて動けないでいる。しかし逃げ出すのも、それはそれでプライドが傷つく。
意図せず生まれた戦闘の停滞だが、これはモモにとって都合がよかった。
このまま待ち続ければ蔵馬が迎えに来る。どうにかして時間を稼ぐのが最善だろう。
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