第三章
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第三章
部屋の中は模様替えした前と同じであった。香りもまた同じである。
「それでね」
「ええ」
洋香は机から一冊の本を取り出してきた。便箋があちこちに入れられかなり読み込まれているのがわかる。
「ここなんだけれど」
開いたところにあのムースがあった。
「どう、かなり複雑でしょ」
レシピを見せながら説明する。
「ムースって作るの大変なんだから」
「そうみたいですね」
「特に果物のはね」
彼女は言う。
「手間隙がかかって。それに美味しくするのも難しくて」
「そんなにですか」
「けれど今回は上手くいったみたいね」
まずはそれに微笑んでいた。
「美味しかったでしょ、あのムース」
「ええ、とても」
それは事実だった。
「よかった。そうじゃないと作った介がないわ。それでね」
「それで」
「今もまだ甘い匂いがするわよ」
「甘い匂い?」
潤一は最初それはこの部屋の匂いかと思った。
「そうですね」
そして部屋を見回しながら言った。
「この部屋って何か甘いと思ったらお菓子の匂いだったんですね」
「違うわよ」
だがその言葉は目を細めて否定した。
「そうじゃないのよ」
「そうじゃないって」
何か洋香が何を言っているのかわからなくなった。
「どういうことなんですか」
「潤一君からよ」
目を細めたままこう言ってきた。
「その匂いは」
「匂いって」
今度はムースの匂いかと思った。
「さっきのムースの」
「そうよ。凄く香ってるわ」
洋香は潤一を見てこう言った。
「何かね」
「え、ええ」
ここで彼女は自分の身体を彼に寄せてきた。
「潤一君がお菓子になったみたいに。ねえ」
彼女は言う。
「今ね。お母さんいないのよ」
「はあ」
抱きついてきた洋香を拒むことは何故か出来なかった。目と目が合う。その目は潤んでいた。
「私と潤一君だけなのよ。だから」
さらに言った。
「食べていいかしら」
「何を」
「お菓子を。ねえ」
顔をさらに近付けてくる。目を潤一の目から話はしない。
「食べて・・・・・・いい?」
「お菓子って」
「今甘い香りがするお菓子よ」
それが何か。もう言うまでもなかった。
「潤一君さえよければ」
「まさか今までのは」
「そうよ。ずっと前からね」
目が次第に潤んでいく。魔法の様に。
「いいわよね。もう私」
「洋香さん・・・・・・」
「ん・・・・・・」
目を閉じて唇を合わせていく。そしてそのまま。二人は洋香のベッドの中で並んで横になっていた。
「はじめてだったのね」
「・・・・・・はい」
潤一はベッドの中でこくりと頷いた。
「まさか洋香さんとこんな」
「私、前から好きだったのよ」
その洋香は彼の横
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