第二章
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寂しいでしょ?」
「それもそうですね」
やはり何かを作ったなら多くの人に食べて欲しいのが人情というものである。洋香もそうであったしこれは潤一もわかる話であった。
「だからね。お願い」
「洋香さんのお菓子を」
「是非食べて欲しいのよ」
潤一の目を見て言う。
「いいかしら」
「喜んで」
実は潤一がこう言うのも計算している。だがそれは口には出さない。
「洋香さんのお菓子が食べられるなら」
「じゃあまた来てね」
「はい」
「お菓子、どんどん作ってあげるから」
こうして潤一は洋香のお菓子を食べられることになった。彼にとっては非常に嬉しいことであり実際にその甘いお菓子を堪能した。そんな日々が続いた。
「今日はこれよ」
桃のムースであった。冷蔵庫から取り出したそれはいい具合に固まっていた。
「かなり時間がかかったけれど」
「桃をすり入れたんですよね」
「ええ、そうよ」
「そりゃ時間もかかりますね」
「だって食べてもらいたいから」
潤一の向かいの席でにこにことしながら述べた。
「自然とね。力も入ったのよ」
「僕に食べて欲しかったんですか」
「そうよ」
洋香は言った。
「だから作ってるんだし」
「あの」
前と話が変わってきていることを言おうとした。
「確か食べてくれる人が何か」
「私何か言ったかしら」
上を少し見てとぼけた。
「そうなんですか」
「御免なさいね、ちょっと覚えてないわ」
「はあ」
何かかなり白々しくかわされてしまった。
「それでね」
「はい」
話は洋香のリードで進む。
「ムースの味、どうかしら」
「味ですか」
「そうよ。ちょっと食べてみて」
「ええ」
言われた通りに食べてみる。スプーンで口に入れる。すると桃のあの穏やかでそれでいて強い甘みが口の中を支配したのであった。
「美味しいです」
潤一は口元を緩ませてそう答えた。
「今日のも」
「そう、よかったわ」
これこそ洋香が待っていた答えであった。
「このムースね、実は特別な作り方をしたの」
「特別なですか」
「そうよ。知りたい?」
潤一の目を覗き込んで言う。その顎は重ね合わせた自身の手の平の上に置いている。
「よかったら教えてあげるけれど」
「それじゃあ」
潤一は半ば無意識のうちにそれに乗った。
「教えてくれます?」
「ええ、いいわよ」
顔を少し左に傾けて頷いてきた。
「じゃあまずはムースを食べてからね」
「はい」
そのままムースを食べ終えた。それから洋香に連れられて部屋へと入るのであった。
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