暁 〜小説投稿サイト〜
横浜事変-the mixing black&white-
田村要はいつだって自分を見失わない
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下校前 山垣学園

 六時限目が終わり、HRが始まるまでの休憩時間。各々(おのおの)が自由な動きを見せている中で、要はケンジの席に足を向けた。

 ケンジは教卓から見て窓際の一番後ろに座っている。誰もが憧れるベストポジションであり、彼はそこで存分に羽を伸ばしていた。今も一人で陽に映える木々を眺めている。帰りの支度をする気はあるのだろうか。

 ――とりあえず今日までにモヤモヤを吹き飛ばしたい。どうしても無理だったら、暁を殺せば良い話だ。

 かなり利己的な考えな上に猟奇じみているとしか言えないのだが、それまでに要はイライラしていた。

 これまで街の裏側に身を浸し、人を殺める事で人間関係を築いて維持してきた。だが今の自分はそのキャリアを滅ぼしてしまう爆弾を抱えている。それは自分自身への冒涜であり、即刻排除しなければならない代物だ。

 ――暁が原因なら暁を殺す。そうじゃないなら、単に俺が血迷っただけ。選択は二つだ。

 冷静とは言い難い状態だが、要は気にしなかった。心中では否定していても、意識は嘘を吐かない。脳裏に温かなイメージを持つ二文字の単語が浮かぶ。それを誰かの血で塗り潰す空疎な作業をひたすら頭の中で繰り返しながら、彼はケンジに話しかけた。

 「暁」

 「え?あ、田村君か。どうしたの?」

話すのはこれで二度目だが、それでも彼の顔は穏やかで人見知りしている様子はない。それが要には癪で、少し声を低くしながら言葉を吐き出した。

 「悪い、また話があるんだ。ちょっといいか?」

 「ああ、うん。話ならいくらでも」

 あっさりと頷いたケンジに、要はさっさと背を向けて歩き出す。これ以上、純朴さを見せ付けられるのは避けたかった。

*****

 要がケンジを連れたのは屋上だった。山垣学園は全体的に真面目な生徒達ばかりなので、授業をサボろうと目論む人間はほとんどいない。彼らがここに詰めかけるのは昼食を取るときぐらいで、それ以外の用途で使われる事はなかった。

 図書館以上に街の様子を観望出来る位置を、ケンジが感嘆した表情で立っている。その後ろには要。互いに目を合わせていない状態で、要は背を向ける雑念対象候補の少年に話しかけた。

 「いきなり変な質問していい?」

 「うん、大丈夫だよ」

 あまりに早い回答に、今度は呆れ混じりに呟いてしまう。

 「やけに軽いな」

 「田村君の質問に無意味なものってないなあ、って思ったんだ」

 ――そんなに秀才だと思われてんのか、俺。

 確かに自分は周りの生徒達より全てにおいて上手(うわて)を取っている。だが他人の口からそれを告げられたのは初めてだった。

 ――……今、俺また変なこと考えやがったな?

 前置き
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