暁 〜小説投稿サイト〜
横浜事変-the mixing black&white-
田村要はいつだって自分を見失わない
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に、あいつの幼馴染って確か『殺し屋の電話番号』の被害者だよな。それなのにあいつ、よくあんなに普通でいられるよ。本当に凄いと思う。
実際、ケンジは幼馴染を殺された反動で要と同じ世界に足を踏み入れたのだが、彼はその事を知らない。
要の心に暗雲が立ち込める。ベンチの上で重たい身体を仰向けにさせて、上空に浮かぶ無数の雲を眺めてみた。今の自分とは違い、何とも清々しい色をしている。明確な違いを目にした彼は再び溜息を吐いた。
――お前を殺してでも自分の感情に決着つけようと思ってたのに、こっちがやられちまったよ。これじゃ、俺の人生なんて……。
「……いや、意味はある」
悪質な黒に飲み込まれそうになる自分を救出するために言葉を口に出してみる。そうでもしないと自暴自棄に陥って下らない事をしてしまいそうだった。
今までとは違う、身体を包み込むように柔らかい風が要の頬を撫でていく。それはまるで要の濁った心を潤してくれているかのようだった。
しかし、殺し屋の心は元々汚れている。ここで除去すべき考えは――
「俺と暁は似てるけど、根本は違うってことだ」
二人の過去やそれに伴う境遇は確かに近い位置にある。だが、互いに過ごしてきた日々が作り出した二人の人間性は全く異なる筈だ。その証拠に、要自身は殺し屋という人でなしの仕事で金を稼いでいる。その時点で『普通』からかけ離れているのは言うまでもない。
「なら俺は自分の人生を否定しちゃダメだ。掲げた思想を簡単に捨てちゃダメなんだよ」
別れる運命にある人間関係は無駄なものとする、会者定離を完全否定した要の思想。ケンジの話を聞いた時は危うく崩れそうになったが、その心配はいらない。
少年は色のない顔に残忍さを滲ませて、屋上というステージに向かって宣言した。
「友達なんて必要ない。安定の位置だけがあれば、それでいい」
その言葉はまさに要自身の考えを端的に表していて、はっきりした意志が籠もっていた。
しかし彼はまだ知らない。暁ケンジが同じ穴のムジナだという事を。時期は異なれど、最終的に行き着いた場所が同じである事を。
遠くの空に映えていた太陽はすでに建造物群の下に隠れてしまい、オレンジ色の輝きだけが雲の切れ間から不規則に顔を覗かせている。しかしその中で、屋上はどこにもその光を浴びていない。
まるで、その場にいる殺し屋の過去を再現しているかのように、果てしなく孤独に満ちていたのだった。
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